自滅のシナリオの分析

  それでは、性格分析で最も重要な、自滅のシナリオの分析方法を説明します。


◆「不安さん」か「不満」さんか? 

  自滅のシナリオの分析では、不安と不満を中心に考えていきます。つまり、不安と不満が自滅のシナリオの主役になります。

  まず第一に、自分が「不満」さんか、「不安さん」か、「不安と不満さん」かを決めてください。嫌なことや困難なことが起きたときに、不安を感じる人は「不安さん」です。不満を感じる人は「不満」さんです。不安も不満も両方感じるという人は「不安と不満さん」です。

  これの判別には、幼稚園や小学校など、小さいときのことを思い出していただくほうがよいでしょう。何十年も生きていますと、なかには、自分を作り替えている人もいます。正反対の性格になっている人もいます。だから、現在の自分がどう感じるかということよりも、幼い日の自分を思い出していただくほうが正確になります。

  性格で基本になっているのは2つです。人生で困ったことが起きた時、思うようにならない時、困難に直面した時に、不満を感じるか、不安を感じるかという点で、人の性格は大きく二つに分かれます。

  困ったことが起こったとき、不安を感じる人を「不安さん」と呼んでいます。不満を感じる人を「不満さん」と呼んでいます。両方感じる人は、不安さんと不満さん」です。「不安さん」は「人生で安心を得たい人」です。だから、うまくいかなくなると安心を得られなくなりますので、不安を感じます。

  一方、「不満さん」は「人生を楽しみたい人」なのです。ですから問題が起こって楽しめなくなるので不満を感じます。

  両方ある人もいますので、このタイプの人は「不安と不満さん」です。ただ、両方ある人も、不満か不満かどちらかが優位になります。家や友達の中という安心できるときは「不満さん」になり、知らない人の中や初めてのことでは「不安さん」になります。

  「不安さん」にしても「不満さん」にしても、仕事や家庭がうまくいっているときは問題は起こりません。問題が起きるのは、困難なことが起こったときです。その時、不安や不満が出てきてそれに振り回され、ますます悪化する解決方法を選ぶことが往々起こります。悪循環に陥り、ひどいときには突然死・過労死までいってしまいます。

  自分の問題点を明らかにするというのは、困難になったとき、悪循環に陥る原因を明らかにすることです。

  まず、自分が「不安さん」なのか「不満さん」なのか、「不安と不満さん」なのかを決めてください。すぐに分かる人はいいのですが、年を取って来ますと自分で性格を変形させているので分かりにくいことがあります。

  ですから、幼稚園や小学校のときはどうだったか思い出していただくと分かりやすいでしょう。小さいとき自分は不安を感じやすい子供であったのか、不満を感じる子供であったのか。


◆違う星の住人

  大切なことは、この「不安さん」と、「不満さん」は違う星の住人ほど違います。全く違う感性です。ここを理解して欲しいのです。でないと、腹が立ちます。

 「不安さん」は外から見ていれば大人しそうに見えますが、口に出して言えば人間関係が壊れて余計に不安が強くなるので言わないだけです。しかし、心の中ではよく腹が立ちます。

  「何でこんなに気を遣っているのに、あの人は分からないのか」とか、「もうちょっと私の立場を考えてものを言ってくれたらいいのに。私の立場が悪くなるでしょう」とか、「私がこんなに我慢しているのが分かっているはずなのに、少しも直そうとしない」とか、心の中では不安と苛立ちと怒りが渦巻きます。

  でも相手が「不満さん」であれば「不安さん」の心の中など全然分かっていません。不満さんは、人の評価が気になりません。楽しければいいんです。どこへ行こうと、言いたいことを言い、自分のしたいことしかしません。「不安さん」が何も言わない以上、納得していると思っています。我慢しているなどとは夢にも思いません。


◆天守閣と討ち死に

  このように「不安さん」と「不満さん」は全く違います。例えば、立派な天守閣があって、お城の中はたくさん兵隊がおり守っている。天守閣にも部下がたくさんおって控えているのに、槍を持ってガタガタ震えている殿様、これが「不安さん」です。

  一方、「不満さん」はどうかと言うと、敵が城に迫って来た。籠城なんて考えない。敵はなぎ倒せばよい。「門を開け」、「行くぞ」と言って、真っ先に馬に乗って走って行く。急に飛び出すので部下がついてこれない。自分だけ走って行くもんだから、討ち死にしてしまった。これが「不満さん」です。

  それが生活の基本パターンになります。同じ事が起こっても受け取り方が全く違うのです。だから、阪神大震災のような大災害の場合でも、受け取り方が全く違います。不安で受け取ってしまう人、不満で受け取る人。非常に違います。両方ある人はややこしいです。安心できる時は不満さんです。

 家族とか友人で安心できる時は、「不満さん」が出ますが、知らない人の中や知らない所へ行きますと、今度は「不安さん」が出ます。知らない所で、不満をぶつけたら批判されますから我慢して自分を抑えます。だから、両方ある人は忙しいです。場面と状況次第でくるくる変わりますから疲れます。

  結局、同じことが起こっても、受け取り方が異なります。違う人なのです。感性が違うということです。だから、自分が「不安さん」なのか 「不満さん」なのか、「不安と不満さん」なのかを調べてください。「不安さん」であれば、物事を10倍にも100倍にも200倍にも拡大して考えてしまいます。「不満さん」であれば、考えないといけない時も考えないで走っています。疲れ方が全然違います。

  では、具体的に問題点を見てみましょう。「不安さん」は人の評価が気になるタイプです。いろいろ人の評価を気にして、あれやこれやと考えて、自分を抑えたり、我慢したりするタイプです。どうしても自分が間違っているのではないかと思っているので、自信がありません。

 人の評価が気になりますから、何かをしようとすると、いろいろな人の顔が浮かびます。人にどう思われるか気になって不安を感じます。何かをした後では、あの人にどう思われたか、この人にはどう思われたか、心配で寝付きが悪くなります。いい評価を得ようとして、いい子ちゃんになろうとします。

 いい評価を得られると充実感を感じますが、評価を得られないと不安になります。人の評価がアイデンティティーです。この不安の根底は自己防衛本能と理解できるでしょう。充実感のあるときは、自己反省や自己分析の能力、自己改革の能力、人の不安を思いやる能力ですが、充実感を失うと不安さんになります。自己防衛ばかりになります。「不安さん」は良い評価を得て「安心したい人」です。


◆最初はいい人

  E(評価を気にする子供)とD(自由気ままな子供)の両方ある人は大変です。自分が不安と不満に振り回されるのは当然ですが、周囲も振り回されます。ある時は不安、ある時は不満ですから、何がなんだか分からなくなります。

  しかし、性格分析でみればそれほど難しくはありません。E(評価を気にする子供)と、D(自由気ままな子供)の両方があるので、安心できる状況の時はわがままが言えます。家族の中とか、気心の知れた友達の中です。

 しかし、知らない場所で知らない人の中とか、大勢の人の前に出ると当然不安が強くなりますから、E(評価を気にする子供)が働きD(自由気ままな子供)を抑えようとします。借りてきた猫のようだとか内弁慶とか二重人格とか言われるのは、このことです。同時に不安と不満がでることはありませんから、今は不安、今は不満と理解できるようになれば整理できますが、もし性格分析を知らなければ本当にパニックの人生になるでしょう。

  パニックは2つの形で起こります。一つは自分、もう一つは相手にです。
  まずは自分の場合です。D(自由気ままな子供)がありますから、前に出たいという気持が強くあります。自分を主張しないではおれません。しかし、前に出たり自己主張すれば、人の評価は悪くなります。

  一人になったり、夜寝るときには、E(評価を気にする子供)が働きだします。「あの人にはどのように思われたかしら。他の人にも悪く思われたのではないだろうか」。いろいろな人の顔が目に浮かびます。針のむしろに寝ているようで居ても立ってもおれなくなります。

 「こんな辛い思いをするぐらいなら、明日はおとなしくしていよう」と心に誓いますが、明日になるとまた元気になっていますので、自分を抑えてはいられません。

 黙っていては、自分を感じられません。これでは私は生きていないではないか、私はどうなるのと、自己主張をしてしまいます。しかし、一人になればまた、E(評価を気にする子供)が現れ、「この人にはどう思われたかしら、あの人に嫌われたのでは?」と自己嫌悪に陥りのたうち回るということになります。

 次は相手に起こることです。例えば、あなたが男性で、ある女性に出会ったとします。最初は大人しそうで良い人のような感じがします。世の中で良い人とは、自分にとって都合の良い人という意味ですが、まず最初は良い人と思えて結婚したいと思います。しかし、考えてみれば分かりますが、大人しいというのはE(評価を気にする子供)が高く自分を抑えているということです。ここが第一の誤解です。

  しばらくつき合っていくと、相手の女性にすこし我がままがでてきます。つまり、安心できるようになると、E(評価を気にする子供)は下がります。評価をあまり気にしなくて良くなるからです。D(自由気ままな子供)がでてきます。

 しかし、最初の大人しくて良い人という印象が強くありますから、「すこしわ我ままがあった方がかわいいかな。結婚すれば、家のことを一生懸命してくれるはずだ」と思います。そして結婚すれば、結婚というのは安心の保証ですから、もうE(評価を気にする子供)はいりません。

 あとはD(自由気ままな子供)が出放題ということになります。わがままの雨霰です。「こんなはずではなかった。何がなんだか分からない」とあなたはパニックになりますが、こんなはずだったのです。おかしいことが起こっているわけではありません。心の動きから見れば当然のことが起こっているだけです。


◆Eの子供とDの子供は違う

  登校拒否の子供のためのヨットスクールで子供が死亡したという事故が起きました。この後類似した事件がいくつか起こりました。この悲劇はDの子供と、Eの子供は全く違うということが理解されていないからだと思います。

  Dの子供は我がままで気まぐれです。叱られても平気です。人の評価を気にしていないので、こたえないのです。将来困るということも頭には浮かびません。将来困るというのはEの感じることです。Dは今が楽しければいいのです。

 問題を起こしても本人は不満になるだけです。施設のほうも手を焼きます。言っても聞かない。不満をぶつけて反抗してくる。施設を平気で抜け出す。本当の情熱を持っていない施設なら、退寮させるでしょう。その前に本人が抜け出すでしょう。

  一方Eは、退寮になったり逃げ出せば、親の愛がなくなることを恐れます。また、不安が分かるだけに親の困ることも分かります。愛が欲しいのと困らせたくないのとで、いい子でいようと努力します。とことんまで耐えようとします。

  施設にとっては扱いやすい子供です。よく言うことを聞き、強い人間にすることが良いことだと短絡して考えている施設では、扱いやすい子供をしごき、子供は必死で耐える、さらにしごくということで最悪の結果が起こり得ます。

  社会で生きていくためにはルールがあることを、厳しく教えなければならないのはDです。Dはフロンティア精神で前に進もうとする感情ですが、一歩間違えますと、我がままで、自分が楽しむことしか考えません。人の不安は分かりません。アクセルだけの自動車のようなものです。しかも、事故を起こしても自己反省能力がないので、人の責任にするだけです。

  一方、Eに対しては、厳しさはいりません。十分自分を責めています。自信を失って、いい子になろうと必死に努力しようとしています。ただうまくいきません。どうしょうどうしょうと焦るばかりで、オロオロしています。Eに対しては、何もできなくてもあなたは素晴らしいということを教えてあげることです。まず、親自身がそれを理解することです。
  このようにEとDが違うということを理解することは非常に大切なことなのです。


◆100万円の使い方

  目の前にポンと100万円置かれ、これをあげますから自由に使いなさいと言われたとします。Eは、人生の目的が安心ですから、銀行に行って貯金します。最近は銀行も倒産する所が出てきていますから、「大丈夫かな。郵便局の方が良かったかな」と不安になり悩んでいる。Eさんにとって、これが正しい使い方であり、心の動きです。

  一方Dは、人生の目的が楽しむことですから、早速旅行会社へ飛び込み、海外のリゾートでサーフィンをする。食べたり飲んだりで、あっと言う間にお金はなくなってしまう。「ああ楽しかった。でもまだ楽しみ足りないよ。何で100万しかくれないの。結構ケチだな」と不満を言っている。これがDにとって正しいことです。

 どちらも正解なのです。感性が違うだけなのです。ただ、この二人が結婚をすれば、「それは悲劇の始まりです」ということです。


◆親からのメッセージを点検する

  次に、A(きびしい親)、B(優しい親)、C(合理性)の部分が、どのような影響を受けているかを点検していただきます。これらの部分は、生まれつきあるのではなくて、教育やいろいろな影響を受けて成長するものです。その影響は小さいときの方が強く残ります。

  いかに生きるべきか、どうすべきか、言葉で言われるだけではなく、親の毎日の行動や生き方から、子供は多くを学んで大きくなっていきます。もちろん、兄弟、友達、先生、書物などさまざまなものから影響を受けますが、やはり最も大きな影響は親からのものでしょう。これを親からのメッセージと呼びます。

  A(きびしい親)の高い人では、どのようなメッセージが入っているでしょうか。「人を安易に信じてはいけません。だまされますよ」、これはお父さんがいい人で、人を信じたために倒産した。そのような出来事があれば、このような言葉がお母さんの口からいつも出ていた。それがメッセージとなった。そういうこともあるでしょう。

  「後ろ指を指されるようなことをしてはいけません」、学校の先生の家や旧家、あるいは伝統や権威を重んじる家で育てば、このようなメッセージが大人になっても、頭の中で生き続けることがあるかも知れません。 「欲しいものがあれば、人を倒してでも手に入れなさい」、これは穏やかではありませんが、強い子に育てたいという思いのあまり、そのようなメッセージを与えてしまうこともあるでしょう。

  B(優しい親)の高い人ではどうでしょう。「一生懸命に人のために働きなさい。そうすれば、必ず報われますよ」、二宮尊徳症候群と呼んでいます。現在の若者には理解しがたいことかも知れませんが、団塊の世代以上の方では、よく聞いた言葉です。 あるいは、「強くたくましくありなさい。そうすれば尊敬されますよ」、スーパーマン症候群と呼んでいます。たくましい父、しっかりした母、現在では流行りませんが、一昔前ではこういう言葉も聞き慣れた言葉でした。

  C(合理性)ではどうでしょう。自己正当化です。自分が間違っているのに、いろいろと理屈をつけて、自分の方が正しいのだと主張する。いわゆる屁理屈です。自己説得というのもよくあります。自分の不幸や失敗を、そのまま認めるのでは耐えられません。「人生長い目でみれば、プラスマイナスゼロだ」とか、「こうなる運命だったのだ」とか、人を説得するのではなく、自分を説得する。納得しようとする。こういうこともよくあります。

  この他にも、たくさんのメッセージを受けているはずです。幼いときのことは、忘れています。だから、じっくり思い出してください。

  自分が「不安さん」か、「不満」さんかが分かり、どのようなメッセージを幼い日に受けているかが点検できれば、自分の性格を形成している要素と自滅のシナリオが理解できます。


◆自滅のシナリオ分析から見た各タイプ

 性格の10タイプについて、不安と不満が親からのメッセージに結合して自滅のシナリオを形成するということを見てみましょう。この分析により性格分析の理解が飛躍的に上達するはずです。

  「不安さん」で、「人を信じてはなりません。だまされますよ」とか「後ろ指を指されるようなことをしてはなりません。軽蔑されますよ」とかいう親からのメッセージを受けていて、不安をA(警戒)によって解決しようとする人は、「バラバラさん」になります。

  「不安さん」で、「一生懸命に尽くしなさい。そうすれば必ず報われますよ」という親からのメッセージを受けていて、不安を一生懸命仕事をすることで解決しようとする人は、「ボロぞうきんさん」になります。

  「不安さん」で、不安の解決をクールにしようとする人は、「クールさん」になります。

  「不満」さんで、「一生懸命に人のために働きなさい。そうすれば、必ず報われますよ」、「強くたくましくありなさい。そうすれば尊敬されますよ」という親からのメッセージを受けていてる人は、「行け行けさん」になります。

  「不満さん」で、不満を人のせいにして攻撃することによって解決しようとする人は、「あんたが悪いさん」になります。

  「不満さん」で不満をクールに処理しようとする人は、「クールさん」になります。

 「わがまま(D)であってはならない、軟弱(E)であってはならない」という親からのメッセージを受けて、D(不満)やE(不安)を押し殺して生きている人は「伝統さん」になります。


◆混合型タイプの読み方

  みなさんの性格のグラフがどのタイプになるか分かりましたでしょうか。典型的なグラフの方は問題ないのですが、どう理解すればよいか分からないというグラフの方も少なくないはずです。

 ここで、混合型のグラフの読み方を解説します。これは非常に有効な方法です。ただ、中途半端な理解は自分も人も傷つけてしまいますので、性格分析のカウンセリングを受けていただき、確実に理解していただきたいと思います。

グラフ A:12点 B:14点 C:12点 D:14点 E:16点
爽やか指数 26点  不快指数 72点
 
  このグラフの方は、すべての部分が同じ程度ありますので、一見して「普通さん」かなと思います。しかし、「普通さん」でないのは充実感テストを見れば明らかです。「普通さん」は社会適応抜群ですから、「爽やかさん」のはずです。これだけ「不快さん」になるのは、大変な葛藤や矛盾を性格の中に抱えているはずです。

 まず、E(他人の評価を気にする子供)が高く、それよりは低いがD(自由気ままな子供)も高いことに注目します。

 不安な状況、つまり人前や知らない所では、E(他人の評価を気にする子供)が中心になります。自己防衛です。

充実感が高いときは、B(やさしい親)で行動する余裕がありますから、「ボロぞうきんさん」になります。

充実感が低下してくるとA(警戒)が強くなりますから、「バラバラさん」になり自滅のシナリオが始まります。

  一方、安心できるところ、つまり家の中や友達の中ではE(他人の評価を気にする子供)が下がり、D(自由気ままな子供)が中心になります。

充実感があるときはB(やさしい親)で行動しますので、「行け行けさん」になれます。

充実感がなくなるとA(攻撃)が強くなり、「あんたが悪いさん」となり、自滅のシナリオになります。

  不安の時は、「ボロぞうきんさん」か「バラバラさん」、不満の時は「行け行けさん」か「あんたが悪いさん」と多彩な性格が演じられます。また、不安の時は、D(自由気ままな子供)を押さえ込まなければならないので、自分のなかで葛藤が高まります。

 自分も周囲の人も、何がなんだか分からなくなりますが、性格分析に習熟すると簡単です。今、E(不安さん)なのか、D(不満さん)なのかを知ること、そしてその解決にA(警戒や攻撃)を使おうとしているのか、B(親切)を使おうとしているのかを見抜ければ良いのです。


◆仮面を脱ぐ

 さて、ここまで勉強していただきますと、随分深く読めるようになったと思います。典型的なタイプであれば、すぐ理解出来る。自滅のシナリオも見抜けるようになった。混合型タイプも理解できるようになった。

  しかし、ほんとうに難しいのは、「仮面さん」になっている場合です。

  永らくそうしてきたので、自分でも仮面とは感じない。本当の自分のようになっている場合です。自分でも気づいていないのでは、どうしてそれを発見したら良いのか? 人から指摘されても納得出来るはずがありません。

  「仮面さん」こそ、性格分析のカウンセリングなしには、自由になることは不可能かと思います。とは言っても、かなりの程度までは理解できます。幾つかの特徴を上げましょう。

  第一は、本当のタイプとは違うものがあることです。例えば、「行け行さん」であれば、爽やか指数が非常に高い。特別にハード・スケジュールで、物理的に限界をはるかに越している場合は、さすがの「行け行さん」も爽やか指数が下がりますが、そんなに過激な生活でないのに、爽やか指数が低い場合の「行け行さん」は「仮面さん」かもしれません。

  しかも、本当の「行け行さん」は、殆ど自覚症状がありません。だから、自覚症状の強く出る方は「仮面さん」の可能性があります。

 「クールさん」は先程のタイプの説明のところでお話しましたが、「仮面さん」そのものといってよいでしょう。考えてみれば当然です。赤ん坊の時から、「クールさん」の筈はありませんね。子供の時は、D(自由気ままな子供)かE(人の評価を気にする子供)か、その両方です。ですから途中からそうなったのです。

  同じことは、「伝統さん」についても言えます。子供の部分がなくて、親の部分だけというのがこのタイプの特徴ですが、生れた時から「伝統さん」というのはないはずです。

 どうしてこのようなことが起こるのか。それは、簡単に言えば性格とは、D(自由気ままな子供)からでる不満と、E(人の評価を気にする子供)からでる不安に、どう対応するか、どう対処するかという問題だからです。 特に、E(不安さん)の場合が問題です。

 E(不安さん)さんは、自分は間違っているかもしれないという気持で生きている。このままの自分ではいけない。変わらねばならないと思う。

  あるいは、自分のしたいことを押えて生きています。我慢して生きている。楽しくはありません。世の中には我がままに楽しくやっている人も多い。気を遣って生きているのに、気を遣っていない人のほうがうまくやっている。もうこんな生きかたはやめようと思うのも無理のないことです。

 一方、D(不満さん)が仮面を被ることは少ないでしょう。D(不満さん)さんは、自分が正しいと思って生きている。自分を変えなければと思うことは少ないはずです。言いたいことをいい、したいことをしているので、それが出来ている間は、変わろうとする必要を感じない。

  したいことが出来なくなった時でも、人に対して腹が立つことがあっても、自己反省能力が少ないので、自分を変えねばという意識は出ないことが多いでしょう。

ということで、仮面を必要とするのはE(不安さん)が多く、D(自由気ままな子供)もE(人の評価を気にする子供)も両方ある場合でも、E(人の評価を気にする子供)が強くある方が多いでしょう。

  自分の不安を押えたり、解消するために、若い世代では「クールさん」になることが多いでしょう。貧しい時代の日本を生きた世代では「伝統さん」でしょう。しかし、「あんたが悪いさん」にも、「普通さん」にも、稀には「行け行さん」になることもあるでしょう。

  どのタイプになるかは、両親や教育、その他の環境によるでしょう。いずれのタイプになっても、自分の本来のタイプと違ったものですから、大変なエネルギーが必要です。いつも緊張状態にある。自律神経が過緊張して自律神経系失調症になってきます。自由さ、水みずしさ、豊かさ、温かさを失います。本当の自分でないものに無理になれば、それらのものは失われます。

  他のタイプになろうとすることは、他人の山を登ることですから、いくら頑張っても他人の山です。自分の性格から自由になることは出来ません。一日も早く、仮面から本当の自分を発見しましょう。


◆行け行けさんの仮面さん

グラフ A:6点 B:18点 C:17点 D:13点 E:2点
爽やか指数 37点  不快指数 40点

 一見「行け行けさん」ですが、A(きびしい親)が極端に低すぎます。充実感テストも「無感動さん」です。

  この方は、本来はE(評価を気にする子供)が高いのですが、「強くありなさい」という親からのメッセージを受けていて、「行け行けさん」になろうとされたのです。「行け行けさん」になるためには、E(評価を気にする子供)を切り捨てなければなりません。そのとき、A(きびしい親)があれば、人間関係を悪化させます。それはE(不安)を高めることになりますので、極端にA(きびしい親)を下げるという操作をされているということで「仮面さん」です。

  このように「仮面さん」には、もとは「不安さん」が多いように思います。「不安さん」は、「人の評価を気にする人です」。何かをしようとしても、「どう思われるだろうか? 悪く取られないだろうか?」と気になり、なかなか行動を起こせません。

  思い切って行動すれば、今度は、どう思われたかが気になり不安になります。夜もなかなか寝られません。「こんなことの繰り返しで人生が終わるのか」と思うと、自分が嫌になります。そこで、「もう一切気にすることは止めよう。ずぶとく生きよう」、そのように決心する人が現れてきます。確かにそうです。

  気にしてばかりでは、何のための人生か分かりません。世の中を見れば、ずうずうしく生きている人もたくさんいます。そのような人の方が成功しているではありませんか。「もう、こんな自分とは縁を切ろう」、そう考えたとしても、なるほどと納得のいく話です。

  しかし、一般的にいって、「不安さん」が「行け行けさん」になることは成功しません。自分を主張したり、思い切って行動しても、不安が増えるばかりです。振り払っても、人の目は消えません。突出すれば、した分だけ人の評価にさらされます。

  良い評価を得ることが、「不安さん」にとってなによりの安心ですから、自分を主張したり、自分の好きなように行動することは、我がままになることですから、評価が下がります。身も心も疲れ果てるだけ、これが普通なのですが、なかには「行け行けさん」に成功する人もいます。

  その場合は、不安を抹殺することになります。悪い言葉で言えば、突っ張る、居直る、ということになります。長年に渡って持ちこたえてくると、ある程度身につきます。一見、エネルギッシュで、豪放とまではいかなくても、精悍なタイプになります。

  しかし、本来の「行け行けさん」とはやはり違います。不安をおさえ、突っ張っているのが、本人にすら分からなくなっていても、常に緊張があります。不安が出ようとすると、すぐに押さえなければなりません。

 決断力や社交性もそんなにないのに、熟練しているように演じなければなりません。リラックスできません。ゆったりとすれば、不安が芽を出します。不安が出ると、仕事の指示を求められても、すぐに対応できません。そのためにいつも身構えて、すきのないようにしなければなりません。

  昼だけではありません。昼は目の前のことに集中していますが、睡眠中は現実から解き放されるので、過去の不安が出てきます。これでは、夜もゆっくり寝ていられません。不眠になり、疲れます。昼も夜も自律神経系が過度に緊張し、ストレス一杯になってきます。



◆若者の場合

  若い世代にも、少ないとはいえ「行け行けさん」がいます。「仮面さん」ではないのですが、ここで一緒に見ておきましょう。この場合は、「不満さん」になることが多いでしょう。「行け行けさん」がうまくいくためには、D(自由気ままな子供)が社会の中で現実の形にならなければなりません。

  つまり、A(きびしい親)とB(優しい親)が十分発達しており、社会との間で摩擦にならず、建設的な形になるということと、それを合理的に遂行するために、C(合理性)も発達していなければなりません。

  「行け行けさん」の代表選手は、敗戦を体験した昭和一桁世代ですが、この世代は、敗戦後何もない状態から、ありとあらゆる経験ができました。失敗は恐くありません。国自体が失敗したのですから、それ以下にはなりません。失敗を繰り返しながら、A(きびしい親)とB(優しい親)とC(合理性)を磨いてきました。

 百戦錬磨です。それがあって初めて、D(自由気ままな子供)がうまく社会の中で開花したのです。エンジンを吹かすだけではなく、車の構造も交通規則も習得し、さまざまな状況の中で運転の練習もできた。これが「行け行けさん」です。

  しかし、豊かな時代に生まれた若者には、そのような体験がありません。ファミコンと偏差値と鉄筋コンクリートの街です。A(きびしい親)、B(優しい親)、C(合理性)を勉強したり、練習、錬磨する環境にはありません。

  また、豊かな時代では、失敗はできません。失敗すれば取り残されてしまいます。しかも、国の規模も桁違いに大きく、社会の構造も情報も膨大で複雑になっています。下手に動けば、失敗は目に見えています。

 大人なしくしておればよいのですが、D(自由気ままな子供)が許しません。自分を主張しなければ、自分がなくなったように感じます。しかし、社会適応なしで自分を主張すれば、「わがままだ。未熟だ」といって、相手にしてもらえません。ますます「不満さん」になり、C(合理性)がなくなり、悪循環に落ちていく、ということになりかねません。現代の日本は、このタイプの若者にとっては、親たちの時代とは違って、決して生きやすい時代ではありません。ストレスが溜まることでしょう。


◆あんたが悪いさんの仮面さん

  「あんたが悪いさん」は、E(人の評価を気にする子供)が低すぎるのが気になります。生まれつきこのように低いはずはないと思います。よくよく聞いてみると、小さいときにはE(人の評価を気にする子供)の部分が高かったという人が少なくありません。

 そうすると、その人はD(自由気ままな子供)もE(人の評価を気にする子供)も両方とも高かったということになります。後で出てくる「子供ちゃん」であったのかもしれません。

  自己主張しないと自分を感じられない。前に出たい。いろいろなものに好奇心をそそられる。しかし、前に出れば多くの人の評価にさらされる。「どう思われたか?」と考えると、針のむしろに寝ているようでいたたまれない。大人しくしていれば、いい子で評判もいいが、それでは自分を生きているという感じはしない。

  周りを見ると、ずぶとく生きている人も結構いるではないか。しかも、その人たちの方が楽しく、成功しているではないか。もう気を遣って生きるのはやめよう。一切気にしないぞ。そのようにして、E(人の評価を気にする子供)を抹殺して思いどうりに生きようと決断されたのではないでしょうか? 

  しかし、決断をしてもE(人の評価を気にする子供)は消えはしません。心の奥の方でうごめきます。だから、「すべてはあなたが悪いのよ」と、相手に責任転嫁をする必要があるのではないでしょうか? 相手が悪ければ、どんな評価をされようと気にすることはありません。何と言っても相手の方が悪いのですから。

  このようなことがもし起こっているとすれば、「あんたが悪いさん」は「仮面さん」です。しかし、自分でそれを認めるわけにはいきません。長年「仮面さん」を演じて来れば、本当の自分のようになってしまいます。まして、E(人の評価を気にする子供)を見たくないので今まで押さえてきたのです。一応成功してきたのです。今さらE(人の評価を気にする子供)を復活させる必要がどこにありますか? 

  このタイプの方には、安易に「E(人の評価を気にする子供)があるのではありませんか?」と問いかけることは禁物です。余計なおせっかいだと逆襲されることになるでしょう。

  ただ、常に本当の自分でない性格を演じるのですから、仮面を演じることはエネルギーがいります。無意識にはなっていても、E(人の評価を気にする子供)を押さえようと昼はもちろん、夜寝ているときもしていますので、緊張状態が続きます。自律神経系失調症の症状が全面に出てくることになるでしょう。


◆自滅のシナリオと充実感テスト

  自滅のシナリオは、生きている充実感があるときには動きません。充実感が低下して、不安と不満が出て来て、親からのメッセージと結合するときに動き出します。自滅のシナリオが動き出すと、急速に充実感が失われます。ますます、自滅のシナリオに吸い込まれていくことになります。

  だから、性格分析を学ぶということは、自滅のシナリオの分析に習熟して、心の動きを野球の解説のように実況解説できるようになることと、繰り返し充実感テストをおこない、充実感の高低から、自滅のシナリオが動き出すのを明確に知ることです。


◆カセットテープを解読せよ

  では、自滅のシナリオから自由になるにはどうすればよいのでしょう。

  小さい頃の思い出が、たくさんのカセットテープとして頭のなかには積み上げられています。何か困難や人間関係でうまくいかないことが起こると、一斉にこのカセットテープが回り始めます。小さい時の不満や不安が湧き出してくるのです。

  大きくなってからの不満や不安は大したことはありません。客観的に考えてみて下さい。今の日本は豊かです。見えや外見さえ気にしなければ食べていくことに心配はないはずです。むしろ食べすぎて糖尿病になる心配の方を先にしなくてはならないほどです。

  一つ一つの不満や不安の原因を考えて見れば、それがなければ、それが出来なければ自分の人生がなくなる、それほどのものがあるでしょうか。今の時点で考えれば、そのようなものは、殆ど無いのではないでしょう か。

  しかし、小さい時に受けた出来事や、小さい時に植えつけられた偏った価値観は、大人になって体が大きくなっても、心のなかでは生き続けています。

  不安になると、「あっカセットテープが回っているぞ、自滅のシナリオが動いているぞ」、このように理解出来れば、冷静に戻れます。客観的に見て判断していけば心配ないのです。そうすれば、自滅のシナリオから自由になれます。

  不安や不満を力づくで抑えようとしても、疲れるだけです。それだけでエネルギーを使い果たしてしまいます。いつ不安や不満が出てくるか分からないので、何時も抑えよう抑えようと身構え、緊張状態で生きなければならないからです。

  だから、「クールさん」になることによって逃れようとする方がおられますが、成功しません。クールに処理しよう、処理しようと何時も身構えているため、緊張状態になって自律神経失調症になってしまいます。

  押えるのではなく、クールに処理するのでもなく、理解する。エピソードを思い出す。なるほどと納得する。それで初めて、自由になれます。そのカセットテープを外すことが出来ます。


◆家や会社や国も性格を持つ

 性格分析の対象となるのは、一人一人の人間だけではありません。家や会社や国も性格を持っています。そして、個人と同じく「行け行けさん」や「あんたが悪いさん」や「子供ちゃん」などいろいろな性格があります。

  例えば、校長先生、警察署長さん、旧家、伝統芸術の家元などの家は「伝統さん」でしょう。しっかりと力強く権威や伝統を守らなければなりませんから、D(自由気ままな子供)やE(評価を気にする子供)は切り捨て、A、B、Cで生きていくことになります。重々しくて息が詰まりそうな感じがするでしょう。

  会社でも、ベンチャー企業は「行け行けさん」です。しかし、成功して規模が大きくなると維持管理の部分が大きくなり、「伝統さん」になります。規模が大きくなったのに行け行けどんどんしていては、空中分解して倒産します。しかし、「伝統さん」になれば新しいものは生まれません。大企業が官僚化するのは当然といえば当然です。ただ、現在のように新しい展開が必要な時代になれば対応できずに取り残されてしまいます。

  国ではどうでしょうか。ヨーロッパの国々は「伝統さん」でしょう。古いものがたくさん残っており変化が少ないので、世代間の価値観の差も比較的小さく抑えられますが、重苦しさがあるということでしょう。一方、アメリカは「行け行けさん」でしょう。行け行けどんどんですから貧富の差は大きくなるでしょう。それに超大国となったため、「伝統さん」的要素も必要となってきたところでしょう。

  では、日本はどうでしょうか。日本は、「バラバラさん」から「子供ちゃん」というところでしょう。後進国で先進国のまねをしている間は良いのですが、大国となり国際社会へ出ていくと、「子供ちゃん」の弊害が出てきて失敗することが多くなるでしょう。

 政治家も性格分析でみることができます。テレビで見た限りではゴルバチョフさんは「行け行けさん」でしょう。D(自由気ままな子供)が高いから、あれもしたい、これもしたいとやりたいことがたくさんあります。だから、過去のものを壊すことは全く怖くありません。少し壊しすぎて国が壊れたかもしれません。

 一方、エリティンさんは、「きびしい伝統さん」でしょう。D(自由気ままな子供)が低く抑えられているので現状維持です。状況が悪くなれば強権を使ってでも現体制を守ろうとします。政治家の手法や、その時代が求めている政治家のタイプも性格分析で見ればおおよそのことが分かります。

  このように、個人から世界まで、あらゆるものについて性格分析は使えます。そして、このような使っていくことが上達の道でもあります。