昭和62年 10月10日土曜日

男のファースティング <5>

 ファースティングの経験のない方でも、ご家庭でこれさえ実行すれば間違いなく、正しくやせられます」

 健康迫娼での講義。退場長の笹田信五医師(39)減量のすすめ8か条″を黒板に書いた。肥満は、高血圧、糖尿病、高脂血症て、高尿酸血症などの成人病のもとで、脳卒中や心筋コウソクヘの道をたどる。だが、鰯兵急にスリムになろうとすれば、健康をそこねてしまう。徐々にライフ・スタイル(生活様式)を改善していくしかない。その指標となるのが8か条である。
 
 道場では学習の時間が結構多い。成人病などについて笹田道場長が週1回講義し、栄養士さんらも週2回、食生活改善のためのレクチャーを担当、健康指導室では常時、個別指導にあたっている。

 笹田道場長の講義は続く。「長期的に減量作戦を成功させるには、食品のカロリーを覚えることと、毎日の体重測定が一番大事です。カロリーの第一作戦は一品ずつ覚えてること。第二作戦は普段食べている食品をすべて自分の食品リストを作り、それにカロリーを書き入れることです。第三作戦は…」

 カロリー・リストづくりは栄養士さんらの助けをかりる。まず、80iごとの「単位」(または点)で計算することを覚える。卵1個が1単位、ごはんは茶わんに軽く1杯で2単位といった具合に。そして、自分の1日の必要エネルギーを出す。これには個人差があるが、目標体重に体重あたりエネルギー所要量をかけ合わせたものが一応の目安となる。目標体重は体重がベストのときの体重と思えばいい。

 私の場合、目標体重65キロ、体重当たり所要量33なので、1日のエネルギーは 2145i、26.8単位。このうち15単位は人間がいきていく上で必要最小限の基礎食カロリーで、あとの11.8単位は付加食といい、いわば“お小遣い”。かくて朝食はトースト1枚にバターをひとぬりして2.5、目玉焼き1.4、牛乳1本1.4、バナナ1本1.0、計6.3単位となる。

 いままでカロリーのことなど考えたこともなかったので、だんだん頭が痛くなってきた。夫婦連れが何組かいたが、そのうちの1人、名古屋市の歯科医・藤井宏次さん(42)は、「こういうことは家に帰ってからが大事でしょ。それならはじめから女房と一緒に勉強した方がいいと思いましてね」と話す。

 精神面でのライフ・スタイル改善の指標として笹田道場長が勧めるのが、座禅。「生命とは何か」ということで医学生時代、煩悶したという道場長は、当時から座禅に親しんでおり、道場での日課になっている座禅会では、率先垂範。足を結跏趺坐、はたは半跏趺坐に組み、セイ下丹田で呼吸しながら、ひと一つ、ふたーつと数をかぞえる丹田数呼吸法を教えてくれた。

 ところが、まわりの人はみんな三昧の境地にあるように見えるのに、こちらは雑念がつぎつぎに浮かんではまとわりつき精神統一など、まるでできない。カロリーと雑念との闘いの日々だった。

<減量のすすめ8カ条>

1,焦らない

2,食品のカロリーを覚える

3,運動は体力の維持増進に絶対に必要なものであるが消費カロリーは極めて少ない

4,体重測定を毎日する

5,個人差を考慮に入れる

6,主治医の先生の指導の下にある

7,きっかけづくりをする

8,心のダイエットをする

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