昭和62年 10月8日(木曜日)男のファースティング(3)


 体重の測り方を健康道場で覚えた。朝、起きぬけに、出すものを出してから、寝間着のまま体重計に乗る。おしっこだけでも多いときは0.4`もたまる。寝間着分はあらかじめ測っておき、差し引く。

 その体重だが、絶食2日目で68.6`。まる一日だけの絶食で入門初日から約2`も減っている。その後も毎朝ダウン、7日目についに66`を割り、ズボンをはいたとき、だぶだぶで仲間のと間違えたと思ったほど。

 食べないのだから減って当たり前だが、不思議なのはそれほど空腹感がないことだ。そのかわり、絶食2日目から3日目にかけて、全身から力が抜けたような感じになり、巡回に采た看護婦さんに訴えると、ビスケット3枚と牛乳を持ってきてくれた。なぜ空腹を感じないのか、道場長の笹田信五先生(39)に質問をぶつけてみた。

 「自給自足をする、からです」
 「えッ」
 先生によるとこうだ。

 休内には、体重70`の人だと、糖分、たんばく質、脂肪合わせて約16万iのエネルギーが貯蔵されている。1日の必要エネルギーを約2000iとすると、実に80日分に相当する。絶食期間中は、この事えを自ら食べ生きていくことになるが、日ごろ、食べ慣れていないので、最初のうちはうまくいかない。このため低血糖発作や脱力感が出てくる。


 「何日恵良べないと苦痛だというのは常識のウソ″です。山の中で遭難したりしたとき、不安のあまり歩き回って体力を消耗させるよりも、水のありかを冷静に探す方が賢明です」と笹田先生はいう。

 これと同時に、極限状態にある体内では、生命を維持するため自律神経系と内分泌系のホルモンが活性化し、強烈な変化が起きている。たとえば、副腎皮質の糖質ホルモン。これは生命力を高める働きがあり、ファースティング中は目立って増加する。反対に、新陳代謝を活発にする甲状腺ホルモンは、減少する。もし増加すればエネルギーの蓄えがどんどん減って生命の維持が危険になる。だから新陳代謝にブレーキをかけるのである。

 「実に絶妙の適応ではありませんか。この大変動は、強烈だけれどスムーズに行われる。ほとんどつらさや空腹を感じないでおれるのはこのせいもあるんです。そして、病気に対する自然治癒力ともいうべき効果の秘密もこのへんにあるように思います。」

 さて、その効果のほどは?私の場合、減量はその後もどんどん進み、復食3日目にはついに65`と道場期間中の最低を記録。退所時は66.1`にまで戻ったが、それでも入門時に比べマイナス4.4`。尿酸値の方は、数年来どうしても8を下回らなかったのが、退所時の検査で6・6とやっと正常化。もう痛風に悩まなくていい。

 臨床記録によると、101.5`(身長167p)あった22歳の女性は、半年おいて前後2回にわたるファースティングで20`の減量に成功。また、52歳の男性は、肥満のほかにアルコール性肝障害、高脂血症、糖尿病、高尿酸血症、高血圧があり、いずれもかなり強度で、成人病の問屋″の観があった。それが、標準コース(絶食7日間)のファースティングの結果、飲酒の指標であるγ‐GTPは40%に、中性脂肪は5分の1に、血糖も2分の1に減少して正常化、血圧、尿酸も改善された。

 ファースティングには、このほかにも見えない効果″があった。

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