新しい心身医学ー心身相関について

新しい心身医学ー心身相関について

現代の治療医学は、高度に成長した医学ですが、病気になってからの医学です。治療医学では、健康医学はできません。健康医学は、心身医学でなければなりません。そして、今後の世界では、心身医学が中心になっていくと思われますが、新しい心身医学が必要です。

 

 このことを、理解していただくには、かなり長い解説が必要になります。多少、退屈になるかもしれませんが、大事なことなので、最後まで読んでいただければ幸いです。

 

◆心身相関

 

 私たちの身体は、60兆個という途方もない細胞からできています。一つ一つの細胞や臓器が勝手に動けば生命が無くなります。そのため、全体として調和しながら働いてくれるように、いろいろなシステムがあります。

 

 下の図を見てください。代表的なものが、自律神経系です。血圧、心臓、体温、呼吸、胃腸系などをコントロールしています。それから、内分泌ホルモン系があります。甲状腺ホルモン、 副腎皮質ホルモン、性ホルモン、成長ホルモン、いろいろなホルモンをコントロールしています。

 

 さらに、免疫系があります。傷口が膿みやすいかどうか、風邪をひきやすいかどうかなどに関係しています。それから最近では、がんとの関係が注目されています。

 

 

 

 

 このような生命を維持するシステムの上に本能が載っているのが動物です。さらに、その上に心が載っているのが人間です。ですから、心と自律神経系、内分泌ホルモン系、免疫系は一体となって動いています。これを心身相関といいます。
 「心と身体はひとつだ、心技一体だ」と日本ではよく言いますが、医学的に言えば、心身相関ということです。そして、心身相関から病気を考えていこうとするのが心身医学です。

 

 心身相関と言うとむずかしそうですが、日常生活ではごく普通に見られることです。

 

例えば、興奮すれば血圧が上がり、心臓がドキドキしてきます。結婚式のスピーチなどで順番が近づけば、ドキドキし、「はい、どうぞ」と紹介されるともう心 臓が飛びだしそうです。しかし、誰かに大きな棒で叩かれているのではありません。ただ、頭の中で自分の番だと理解しただけです。それが自律神経を通って、 心臓や血圧や体温に反映します。

 

 あるいは、オリンピックの100メートル競争の金メダリストの人達だって、ヨーイという声を聞いているのは耳です。走る合図だと理解しているのは頭で す。それが身体に伝達され、身体が熱くなり、心臓が強く脈打ち走る準備ができる。そこへドンとピストルが鳴るので走り出せるのです。

 

 もし自律神経系が切れていたら、ヨーイ、これは走る準備だと分かっても身体は燃えて来ません。ドン、「それでは皆さん一緒に行きましょうか」という程度になりとてもスタートダッシュはできません。このように、心身は常に一体として動いています。

 

 

◆治療医学の限界

 

 今日までの医学は、心と身体を別々に分けてやってきました。ヨーロッパにルネッサンスが起きて以降、「神様の物は神様に戻そう。残りは肉体だから人間も動物も皆同じだ」という考え方が出てきました。これで人間の解剖や動物実験ができるようになりました。

 

 それまでは人間は神の子ですから、うかつに解剖などできませんでした。また、人間には心も精神もあるので、動物とは違います。猫や犬とは同じ様には考え られません。犬や猫で得られた実験結果が人間には当てはまるか分かりません。それでは動物実験は出来ません。心と身体を分離したことで、画期的に医学は発 展できるようになったのです。しかし、そのように分けてしまうと、当然問題が起こってきます。理解できない事柄がたくさん出てきます。

 

 

◆心身医学でないと理解できない

 

 例えば難治性の潰瘍というのがあります。これは病院に入院すると簡単に治ってしまう。しかし、退院して会社に行くとまた潰瘍を起こす。また入院してくると簡単に治る。その繰り返しで、なかなか治らないから確かに難治性です。
しかし、この人の病気は一体どこに原因があるのでしょうか。胃自体にあるのではないです。

 

 会社に行ってストレスがかかると自律神経を介して胃酸がだーと分泌されます。
そして自分の胃に穴を開けてしまう。だから、この人の病気の本当の原因はストレスです。心のコントロールがうまくいかない限り治りません。やはり心と身体は一体として考えねばならない、ということがわかります。

 

 あるいは、過敏性腸症侯群というのがあります。この「電車は次の駅まで20分は止まらない。トイレに行けない」と思うと、トイレに行きたくなる。あるい は、重要な会議で、「2時間は外に出られない」と思うと、とたんにもよおしてきて会議に出られない。緊張が自律神経系を通して腸を刺激するのです。

 

 高血圧もよくわかります。カーとしただけで血圧が上がるので、心と身体が一体であると考えないと理解出来ません。それが心身医学が誕生した理由です。考えてみたら人間の心と身体は別々にあるのではなくて一体であるという、当り前の事実に気づいただけです。

 

 内分泌ホルモン系についてもそうです。ストレスがあると、例えば、甲状腺ホルモンがたくさん出ているようなバセドウ病があれば悪化します。それから、副 腎皮質ホルモン、これは有名なホルモンです。アトピー性皮膚炎のときに塗るとか、喘息のときとか、ネフローゼのときに使う強力な薬ですが、副腎から分泌さ れているホルモンです。ストレスがかかると副腎皮質ホルモンの分泌が増加します。そうすると血糖を上げます。自律神経も血糖を上げますから、糖尿病が悪化 します。

 

 性ホルモンにもストレスが影響します。強い不安があれば生理が狂ったり、時に無くなったりします。これは生物的な適応としてみると、非常によく分かりま す。不安が強い環境や状況では子供を産むのは危険です。不安があると生理が止まって子供が産めなくなる。これは適応現象なのでしょう。

 

 それから、最後の免疫系です。例えば、大きな悲しみがあると、その後がんが発生しやすいのではないかと考えて調べた研究者がいます。その研究者は一番大 きな悲しみは、長年連れ添った夫婦が、そのどちらかに先立たれることだと考え調べてみると、そういう方にはがんの発生が多かったということが報告されてい ます。

 

 あるいは、同じ様にがんになっても、積極的に前向きに明るく生きる人は長く生きる。極々稀ですけども、自然治癒もあり、治ってしまう人もいるということ です。そういう人達の性格を見てみますと、非常に明るくて前向きだということが報告されています。免疫系が活性化するのでしょう。この方面の研究はまだ始 まったばかりなので、確定的なことを言うには、もっと多くの研究が必要ですが大変興味のあるところです。

 

 以上のようにストレスがあると、頭の上から自律神経系、内分泌ホルモン系、免疫系に爆弾を落としているのと同じです。これでは健康にはなれません。さら に昼間だけではなく夜もそうです。最近は簡単に24時間心電図を撮れます。それで見ると夜中に不整脈が発生している人が結構います。どういう時かと言う と、夢を見てる時です。怖い夢や腹の立つ夢です。すると、自律神経系が刺激されて不整脈が発生する。このように、昼も夜も身体に爆弾を落としています。

 

 

◆「食べるな、飲むな、吸うな」は禁句です

 

 それと、もう一つ大切なことは、ストレスがかかるとストレスを発散するために過食、お酒、煙草が必要になると言うことです。ストレスが原因で「食べている、飲んでいる、吸っている」、思い当たる事はないですか。

 

 私の診療室には、痩せたいと言ってこられる方も多いですが、「なぜ太ったんですか」聞くと、「食べたからだ」と答えられます。それはそうでしょう。食べ ないで太る宇宙人のような人いません。私が聞きたいのは、食べたら太る事が分かっているのになぜ食べたかです。その理由を聞くと、やはり家庭でイライラす ることがあったとか、仕事がうまくいかないとか、試験に失敗したとか、失恋したとか、どうもそれらが原因ということが多いです。

 

 もっと悲惨なのは、日頃「食べてはいけない、飲んではいけない、吸ってはいけない」と思って頑張っていると、それ自体がストレスです。「不快指数」が上 がる一方です。頑張れば頑張るほどストレスになり、さらにイライラして過食・お酒・タバコが必要になる、という悪循環に落ち込むことでしょう。

 

 こうして見ると、医者や栄養士はずい分ひどいことを言っています。ストレスがあって、食べたり飲んだり吸ったりしているのですから、ストレスを解消する方法をサポートしないといけないのに、「飲むな、吸うな、食べるな」です。

 

 「また失敗ですか。そんなことでは駄目ですよ」と患者さんを責めるのですが、それは残酷です。頑張ろうとしていること自体がストレスですから、そのうえ に実生活上のストレスがくれば、食べてしまいます。一度食べれば、情けない自分を忘れるために、「もうどうでもいいや」とやけ食いになります。もう、十分 自分を責めているのに、さらに医者や栄養士から「まただめじゃないですか」。これでは立つ瀬はありません。

 

 

◆プラス思考・前向きも逆効果

 

 ストレスの解決法となると、「強い人間になろう」ということで、身体を鍛えたり、死の特訓に参加したりされる方があります。しかし、それで本当の解決に なりますか。すぐに元の木阿弥になりませんか。あるいは忘れてしまおう、気にしないでおこうという方もおられますが、忘れられますでしょうか。
あるいは、最近はプラス思考や前向きに考えようと言うことがよく言われます。

 

 これも問題だと私は思っています。プラス思考や前向きに考えられるのは、まだ身体も心も比較的元気なときです。会社は倒産し、自分は病気になる。子供は いじめで学校へ行けない。そのようにとことん追い詰められたときに、プラス思考はできますか。前向きに考えようとしても、何もできない自分を責めるだけで はないでしょうか。

 

 まして、歳をとり身体が動かなくなり、最後は死ななければなりません。死に直面してどんなプラス思考があり得るのでしょうか。

 

 元気な人はサポートする必要はありません。プラス思考もできない人にこそサポートがいるのです。その時に「元気を出せ」は残酷ではありませんか。「あな たはできるはずだ」とか「皆が期待しているよ」とかいう励ましは、「今のあなたは駄目ですよ」と言っているのと同じです。崖っぷちに立っている人の背中を 押すことになります。疲れ果てたときには、決してプラス思考や前向きに考えないでください。また、疲れ果てている人に対しては、決してそれを押しつけない でください。

 

 

◆心身医学的に見た病気の成り立ち

 

 以上のようにストレスは、2つの経路で健康を破壊します。一つは、心身相関を直接悪化させるのと、もう一つはストレスを発散するために、過食やお酒や煙草が必要になり生活習慣が乱れることです。

 

 この2つの結果として、肥満、高血圧、糖尿病、高脂血症になります。どの病気が出るかは、一人一人遺伝子が違いますので、高血圧の遺伝因子があれば高血圧が出るし、糖尿病の遺伝因子があれば糖尿病がでます。

 

 それから、もう一つは年令です。若い時は病気は現れず、肥満や自律神経失調症ですみますが、年齢と共に発病してきます。このように、年令と遺伝因子によって、どういう病気や症状が出るかが決まる。これが心身医学的な病気の理解です。

 

 従来の医学は、「身体のことは内科、外科、小児科で診てもらいなさい。精神的なことは精神科で診てもらいなさい」と分けておりますから、ストレスとの関 係がよく分かりません。いろいろな自覚症状があっても、内科で一通り検査して異常なかったら、「気のせいですよ」といって帰されることになるのですが、心 身医学から見れば正に気が病気の原因になっているのです。「ストレスを解決しない限りは解決はないのです」ということが非常によく分かります。

 

 充実感テストの結果を見てください。ファースティング前と復食後の「爽やか指数」と「不快指数」との差が日常生活でうけているストレスです。例えば、「爽やか指数」25点、「不快指数」65点では健康になれるはずがありません。

 

 

◆生活習慣病はストレス病

 

 平成8年の秋、当時の厚生省は、「成人病という呼び名を生活習慣病と変更する」と発表しました。これは実は大変大きな変更です。

 

 成人病とは、高血圧、糖尿病、高尿酸血症、さらにがん・脳卒中・心筋梗塞などの総称です。

 

 「成人病」という名前であれば、年をとるとともに起こる病気です。原因は老化ということで、治療は薬や注射というイメージになります。

 

 しかし、「生活習慣病」であれば、原因は生活習慣の悪化であり、治療は生活習慣の改善ということになります。過食・お酒・タバコ・運動不足・過労です。「あなたの生活習慣が悪いのですよ」ということです。

 

 確かに、生活習慣の改善さえすれば、がん・脳卒中・心筋梗塞のかなりの部分が予防ができるというのは事実です。がんは、禁煙で1/3、食事で1/3も防 ぐことができると言われています。心筋梗塞と脳梗塞は動脈硬化から起こりますから、動脈硬化の原因である高血圧、糖尿病、高脂血症、運動不足、ストレスな どを改善すればよいのです。脳出血は高血圧を改善すれば予防できます。

 

 そして、それらはファースティングの効果で見ていただいたように、簡単に改善したり正常化します。私たちは強力な生命力を持っています。この生命力を活かさない手はないはずです。だから、厚生省の発表はいかにも正論なのです。

 

 一見単なる名称の変更のように見えますが、治療方針を薬物療法から生活習慣の改善に変えることであり、まさに革命的な発表といってよいでしょう。もし正確に内容が理解されれば大変なことであり、厚生省の強い意志を感じさせる出来事です。

 

 医学の教科書は「肥満した人の糖尿病はまず減量をすること。高血圧には減塩をすること。薬物療法はそのあとにすること」と強調されます。

 

 私に糖尿病の講義をしてくれた教授は、特にそのことを強調されていました。ただ、その先生は肥満体でした。大きな体を揺するように講堂に入ってこられて、まじめな顔で減量の必要性を説かれるのが、かえって印象的で記憶に残っています。

 

 しかし、ではどうすれば生活様式が改善できるのでしょうか。生活習慣の改善を真剣に考えれば、単に「食べるな、飲むな、吸うな」では効果が上がらないの は、誰でもが知っていることです。いい方法がありません。結局は今までと同じように、「頑張っては元の木阿弥」の繰り返しで、病気が発症すれば薬物療法と いうことになりそうです。

 

 もう何十年も前のことになりますが、私は西ドイツのハイデルベルグにあるヨーロッパ分子生物学研究所というところにおりました。

 

 私の指導をしてくれた教授は理学部の出身の方でしたが、一日に60本もタバコを吸っておられました。ある日、「笹田君、肺がんにならない方法を教えてく れませんか?」と聞かれたので、待ってましたとばかり「先生、それはタバコをやめることです」と答えると、「そんなことは素人でも知っている。医者の君に わざわざ尋ねることではない。聞いているのは、タバコを吸い続けても肺がんにならない方法だ」と叱られました。独創性を最重要とする教授らしい返答でし た。

 

 しかし、タバコをやめる以外に良い方法はありません。WHOもさかんに禁煙キャンペーンをしています。タバコがいかに悪影響を与えているかということです。

 

 ただ、WHOも大学も良い方法を提案してくれません。それは「タバコを吸う原因」を見ていないからです。同じことは、減量や減酒についても言えます。

 

 そこで、心身医学的な理解が必要なのです。過食・お酒・タバコの原因はストレスです。生活習慣の改善に成功するには、ストレスの解決が必要です。つま り、「生活習慣病」とは「ストレス病」であることが理解されなければなりません。ストレスの解決は、まさにがん・脳卒中・心筋梗塞の予防に必要なのだとい う理解です。

 

 

◆がん・脳卒中・心筋梗塞が予防できない理由

 

 がん・脳卒中・心筋梗塞の予防できない理由は、一つにはがん・脳卒中・心筋梗塞を予防するための知識が欠けているからです。このためには、是非、このホームページにある「がん・脳卒中・心筋梗塞で犬死にしないためのテスト」をお読みいただきたいと思います。

 

 もう一つの理由は、もう分かっていただけたと思いますが、むやみに過食・お酒・タバコをやめようと苦闘するだけで、ストレスを解決することを考えないからです。また、ストレスを解決する方法を知らないからです。

 

 何度も言いますが、決して、過食・お酒・タバコを止めることが解決だとは思わないでください。できたとしても一時的です。すぐに元の木阿弥になります。 精神的には、「またできなかった」と自分を責めますので後遺症になります。ストレスがあって、過食・お酒・タバコを必要としているのですから、ストレスを 解決することです。

 

 人間は10Kg体重を落すことに、人生を費やすということはできません。辛い思いをして、多大なる精神力や経費を10Kgの体重を落すことに費やす。こ のようなことには空しくて、長くは耐えられません。解決への出発点に立つには、それがストレス病であるという理解が必要なのです。

 

 

◆ストレスの解決法

 

 では、どうすればストレスを解決できるのでしょうか。ストレスは数限りなく降ってきます。ストレスの原因を一つずつ解決しようとすると、人生がいくら あっても足らないでしょう。不可能のように思えます。やっと、ストレス病という理解ができて、解決へ歩みだしたのに、これでは最初から挫折です。

 

 しかし、安心してください。解決への道が見えています。現実の日常生活で考えてください。同じことが起こってもストレスと強く感じる時もあれば、笑って許せるときもあります。この差は何によるものでしょうか。

 

 それは、生きている充実感と生命力があるかどうかによるのではないでしょうか。自分が満ち足りていれば、多少のことは笑って許せます。しかし、逆の時は大変です。「あの一言が許せない!」ということで夜も寝られません。

 

 だから、ストレスの解決法は、ストレスと戦うことではなくて、生きている充実感と生命力を高めることです。

 

 

◆充実感と生命力を高める2条件

 

 では、その充実感と生命力を高める条件です。それは何でしょうか。「身体を活性化させる」ことはもちろん必要なことですが、それだけでは十分ではありま せん。厚生労働省が言っている栄養・運動・休養というのも、身体の健康の条件で、それだけでは足りません。ストレスから解放されなければなりません。

 

 ストレスを解消するための方法として、西洋の心身医学はイメージ療法を用います。「楽しい時や幸せな状態をイメージしましょう」、「美しい風景をイメー ジしましょう」、あるいは「テニスで、うまく打っている状態、棒高跳びで、うまく飛べた状態をイメージしましょう」というイメージ・トレーニングです。楽 しいときや美しい風景をイメージすると、確かに幸せな気持ちになりストレスが消えます。

 

 しかし、これには問題があります。一つには、プラス思考と同じく、本当にどん底になったとき、楽しいことをイメージできますか。周囲に気を遣って耐えて きた。はっと気が付けば死のベッドの上。こんな人生の最後になっても、「楽しいことをイメージしましょう」と言えますか。

 

 もう一つには、イメージ療法で病気や心の悩みが良くなったとしても、「イメージ療法で治った、良くなった」ということで、イメージのほうが自分より偉く なったり、そのイメージを手放せなくなり、精神の自由を失うという欠点があります。ここに西洋の心身医学の限界があると思います。最近はやりの、霊だとか 新興宗教の神様や教祖様もこのイメージ療法と同じ類いでしょう。

 

 

◆頭をカラッポにする

 

 ストレスから解放されるには、もっと簡単で、精神の自由を侵さない画期的な方法があります。それは、「頭をカラッポにする」ということです。心身相関の 図をもう一度見てください。「頭をカラッポにする」ことのほうが、心身相関から見ても妥当であり、良い方法ではないでしょうか。 

 

 「身体を活性化すると同時に、頭をカラッポにする」、この二条件を満たすとき、心身相関が非常に良くなり、自分のうちにある生きている充実感と生命力が高まります。

 

 ストレスの解決のために、自分や他人の性格や価値観、生き方を変える、あるいは現実や社会を変革しなければならないのなら、いくら時間があっても足らないでしょう。貴重な人生がそれだけで終わってしまうのではないでしょうか。
 それよりも、自分のうちにある生きている充実感を高める方が、少し時間はかかりますが確実です。

 

 

◆東洋の無の文化

 

 ただ、「頭をカラッポ」というのは、東洋の「無」の文化です。私たちは東洋の「無」の文化に慣れていますから、「頭をカラッポにしましょう」ということがストレートに理解できます。

 

 相撲でも柔道でも、「無我夢中でやりました」、野球でホームランを打ったときは「無我夢中でした」と言います。日本人は「無我夢中でやりました」、それで充分なのです。その時最高の力がでるということが、皆によく理解されています。

 

 しかし、西洋人にとって、「頭をカラッポにしましょう」というのは実に理解し難いということでしょう。ヨーロッパ文明は、自己の確立を良しとする文明で す。「頭をカラッポにしましょう」というのは、自分を捨てろということですから、パニックに陥いるでしょう。これは文明的に見ますと、大変なことだと思い ます。

 

 ですから私の健康医学は、西洋の心身医学と、東洋の無の文化を融合させたものだと言えると思います。それゆえにこそ、21世紀の健康医学の基本になるだろうと確信しています。

 

 

◆日常生活で見る心身相関の実例

 

 ストレスの解決法は「身体を活性化し、同時に頭をカラッポ」にすることですというところまできました。しかし、「身体を活性化し、同時に頭をカラッポ」 にすれば、充実感と生命力が高まる。果たしてそれは事実でしょうか。私の勝手な理屈ではないでしょうか。その疑問が残ります。

 

 これは体験の世界ですので言葉で説明することは難しいのですが、まず最初に日常生活でよく見られる心身相関の具体例について見ていただき、さらに、このホームページの精神的効果のデータを見ていただければ、事実であることを納得いただけるのではないかと思います。

 

 

◆嫌な仕事は疲れる

 

 肉体的には楽でも、いやな仕事をしているときは疲れます。毎日毎日、疲れがたまってきます。肉体的には少しきついが、楽しんでやっているときは、それほど疲れません。一晩寝たら回復します。

 

 これはまさに心身相関です。「嫌だ、嫌だ」と思っておりますから、自律神経系、内分泌ホルモン系、免疫系のバランスが壊れます。身体の代謝がバラバラになります。

 

 また、「嫌だ、嫌だ」と思っているので、過食・お酒・タバコが必要になり、身体の調子がさらに悪くなります。嫌な仕事をしたときは疲れが残る。楽しくやっているとき、少々肉体的にはきつくても、疲れが残らない。これはまさしく事実です。気のせいではないです。

 

 

◆磁石入りの布団は効くか?

 

 次は民間療法です。いろいろな民間療法がありますが、民間療法が効くかどうかということです。

 

 例えば、非常に高い布団があります。30万円も40万円もするような高い布団です。磁石が入ったようなのもあります。この布団が効くかどうかということですが、ある程度効きます。何が効くかといいますと、磁石は効きません。効くのはやはり30万円です。

 

 今まで、「病気で死ぬのではないか」と不安で仕方がなかった。それで心身相関が一日中バラバラになっていた。高い布団を買った。あるいは、息子から買っ てもらったとか、孫から買ってもらったとなるともっと嬉しいでしょう。「これだけ高い布団だから、これはきっと効く」と信じ安心するので心身相関が良く なってきます。夜もぐっすり眠れるということで効いてきます。だから、値段が高ければ高いほどいいのです。このように心身医学的に見れば、磁石入りの布団 が効くこともよく理解できます。

 

 ただ、欠点があります。それは慣れが来ることです。2、3週間は感動して寝ていますが、1ヶ月もしたら当たり前の布団です。そうすると効かなくなり、次 は60万の布団がいる。それにも慣れてしまったら、さらに高い布団がいる。だんだん家中が布団だらけになるという欠陥があります。

 

 その他、いろんな薬草とかエキスもみんな同じ心身相関による効果です。よく効くと宣伝してますが、中身は効かない。これが大事なのです。というのは、効 くということは、布団の場合はいいが、飲んだり、食べたりするものでは、副作用もあるわけです。よく効くということは、強い副作用もあるということです。

 

 これをたくさんの人が何年にも渡って使用すれば、病気になったり死んだりする人が出ますから、その療法は廃れます。だから、広く長く伝わっている療法と いうのは、中身は効かない。効くのはレッテル。これは5万円もするとか、これは偉い先生が飲んで健康になったとか、あの女優も飲んで綺麗になったとか、そ ういう実例あって本人が効くと信じるので効くのです。

 

 一時流行った尿療法というのがありました。自分のおしっこを飲む療法です。あれは効いたでしょう。よほどの確信を持たないと飲めません。絶対効くぞと 思って確信を持つと、不安がなくなるから効く。しかし、それほど凄じい療法でも、毎日やってたら慣れが来ます。当たり前になるともう効かない。だから廃れ るのです。また新しい方法がいるということになります。

 

 

◆奇跡の泉

 

 これをもっと劇的に効果的にしたのが、西洋で言うと奇跡の泉です。聖地巡礼です。延々と何十日もかかって聖地を目指して旅をしていきます。やっと聖地に 到着すると、そこではコンコンと泉の水が湧いている。それを飲むと、難病がたちどころに治ったという伝説があります。これはある程度真実でしょう。 100%嘘であれば伝説としても伝わりませんので、伝わっている以上は、ある程度真実を含んでいます。

 

 これも心身相関から見たら当然です。巡礼の旅に行くには、休暇を取らないといけない。休養です。それから、歩いていきますから運動になります。それか ら、巡礼の旅ですから、どんちゃん騒ぎはしない。よい食事をとる。ということで、栄養、運動、休養という厚生労働省お墨付きの健康条件を満たすわけです。

 

 そのうえに、毎日毎日砂漠を歩いて行きます。だんだん嫌なことも忘れます。来る日も来る日も、ラクダと一緒に砂漠を歩いて行けば、過去のことも、将来のことも、いろんな人間関係も忘れ、頭がだんだんカラッポになってくる。

 

 身体には良いことをしているし、頭はカラッポになってくるので、心身相関が非常に良くなってきて、生命力や充実感が高まってくる。明るくなってくる。楽 しくなってくる。最高に高まった頃に、聖地に着いて、奇跡の泉の水を飲む。はっと気付いたら、あれほど頑固だった皮膚病が治った。あれほど痛かったリウマ チも痛くない。喘息もない。奇跡が起こったというわけですが、水は世界共通です。水には秘密はありません。人間の心と身体に秘密があったのです。

 

 

◆お遍路さん

 

 同じような例は日本にもあります。お遍路さんです。四国の八十八か所巡りというのがあります。これも同じです。休暇を取る。それから、歩いて行くから運動になる。さらに食べるのは精進料理です。栄養、運動、休養という条件が満たされます。

 

 一方、一つのお寺を巡ると因果が一つ落ちる。次のお寺へ行くとまた一つ落ちる。因果というのは過去です。過去の嫌な思い出や、悲しい思い出が一つずつ落 ちてゆく。なかなか日本人は芸が細かいです。88カ所もありますから、半分くらい行きますと、非常に心身相関が良くなってきます。

 

 季節は春がいいです。今まで気分が暗かったからうつむき加減で歩いていたが、だんだん元気になってきて、顔を上げると、目の前には菜の花が一面に咲いて いる。さらにその向こうには瀬戸内海が光っている。「あ〜生きててよかった」と感動する。そのとき、心身相関は最高に良くなっています。だから、病気が治 る、元気になる、生きている充実感が高まる。これは、心身医学から見たら当たり前のことです。

 

 

◆感動的な夕焼け

 

 巡礼やお遍路さんまでいかなくても。普通の旅や旅行を考えてください。旅は心身相関を良くする作用を持っています。旅がなぜいいかと言うと、頭がカラッポになるからいいのです。つまり、私たちの頭というのは、以前NHKでやっていた連想ゲームのようなものです。

 

 知っているものを見たら、連想がどんどんどんどん浮かぶ。そうすると、腹が立った思い出や悲しい思い出で頭が一杯になる。しかし、知らない土地へ行ったら、連想ができません。

 

 特に効果があるのは、外国へ行くことです。言葉が分からないところへ行けば、日本語が出てこないので、頭がカラッポになる。そうすると、湖が美しい。湖に落ちていく夕焼けが感動的なのです。

 

 近所の夕日も美しいのですが、近所の夕日は落ちてくるのは同じでも、落ちて行く先に知り合いの家がある。あの家には腹が立つ人が住んでいる。恨みがあ る、許せないといろいろ思ってしまうので、頭が一杯になって感動できない。そういう面で旅に出ると、頭がカラッポになりやすい。だから、感動もできるし元 気になります。生きている実感を感じます。

 

 

◆温泉と釣り

 

 温泉だって同じでしょう。お湯につかって身体を活性化する。それからお湯につかっていると、太古から流れている永遠の時と自分が一体化するような気持ちになる。頭がカラッポになります。

 

 釣りに行くのもそうでしょう。身体を使うので活性化する。頭は浮きを見つめていると、浮きだけになりカラッポになる。心身相関がよくなり、なんとなく充実感を感じる。自分を感じられます。

 

 

◆登山家はなぜ危険な山に登るのか

 

 「山男はなぜ山に登るのか?」という問いは有名ですが、「そこに山があるからだ」では、山男らしい表現能力の欠乏です。これも心身相関から見れば、容易に理解出来ます。「山男はなぜ山に登るか、しかもなぜ危ない山に登りたがるか」ということの秘密が分かります。

 

 山に登るためには、まず休暇を取る。登る前からのトレーニングもいる。実際登っていく時も運動です。それから登って行く時は当然食事は節制している。栄養、休養、運動が満たされる。

 

 一方、段々山の上へ登って行くから、日常生活が消えていく。頭の中が、カラッポになってくる。しかも下手をしたら死ぬかもしれない。これが非常に大事な 点なのです。死というものを考えると、日常生活は一切落ちます。社会的なお金とか地位とか名誉とかは、まだ20年も、30年も生きようとするから必要なの で、「今死ぬかもしれない」という危機の前では、そういうものは役に立ちません。「へたをしたら死ぬかもしれない」と思った時、頭の中はカラッポになるの です。

 

 ということで、心身相関が極限まで高まる。私は生きているという実感がくる。感動が来る。充実感と生命力が高まる。しかし、また浮世に帰ると、浮世のス トレスと過食が待っています。身体が重くなる。生きている実感がなくなり、充実感が失われる。「自分が自分ではない」という感じが徐々に強くなる。

 

 だからまた山男は山へ登りたくなるのです。しかし、同じ感動を得ようとすれば、もっと危険な山に登らなければなりません。同じ山では、慣れがあるので危 険が少なくなっています。余裕があるので、日常性が落ちない。同じ感動を得るためには、もっと危険な山に登らなければならないのです。そういうことが理解 されたら、なぜ山男は死ぬまで危険な山に登り続けようとするか、遭難するまで止めることができないのかが分かります。

 

 

◆龍安寺の石庭

 

 それから京都の龍安寺のような石庭があるお寺があります。「人はなぜあそこへ行くのか?」。

 

 これも同じことです。まず休暇を取る。それから少し歩きます。京都駅から歩いた方が本当はいいのでしょうが、近くからでもいいです。付近の見学もかねて 少し散策する。それから食事は湯豆腐位しか食べない。過食の私たちにとっては良い食事になる。こうして、栄養・運動・休養が満たされる。

 

 そしてあの石庭を見る。白い砂の上にところどころ石が並べてある。「この石は何を表現しているのかな?」とか、「何をイメージしているのかな?」と思っ て見るのですが、良く分からない。実は、あの庭の石はどんなイメージも結ばないように並べてあるのです。竜のイメージだとか、犬のイメージだとかそういう イメージが結ばないようにあの石は並べてある。

 

 だから見れば見る程、頭の中は空白になっていく。心身相関が良くなる。10分でも20分でも座って見ていると、なんとなく充実感を感じる。自分を感じることができる。だから人は疲れたらまた行きたくなるのです。

 

 

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