絶食療法を通じて心の充実度を確認する新・心身健康医学
−五色県民健康村健康道場長(笹田信五先生)
淡路島の西岸中央部、五色町にある健康道場は、わが国で唯一絶食療法を専門に行なっ
ている公的機関として知られています。道場長の笹田信五先生は1982年のオープン以来、のべ1万4千人の卒業生を送りだしてきましたが、肥満治療として
の効果という面から、ある問題を抱えていました。
道場では復食を含めて、7〜20日間の絶食療法(ファースティング)を行なっており、その間は確かに体重は激減するのですが、家に帰るとほとんどの人の
体重が元に戻ってしまうのです。道場を開いた直後からこの問題に突き当たった笹田先生は、以来、道場での肥満治療指導を行ないながら、どうしたら元に戻ら
ない方法を医学的に確立できるかを研究しつづけてきました。
「新しい心身健康医学」と名付けられた肥満の治療方法が確立したのは、つい最近のことです。「これは13年間の絶食療法での経験を通して、最終的にたどりつくことができたファイナル・ダイエット(最後のダイエット)である」と笹田先生は述べています。
「食欲と闘うといった小手先の方法では根本的な解決になりませんし、長続きもしません。なぜ過食してしまうのか、その理由を分析することが大事で、突き
詰めていくと結局は、その人の性格や考え方にたどりつきます。結局、肥満というのはカロリーの問題ではなく生き方の問題なんですね。これが本当にファイナ
ル・ダイエット(最後のダイエット)になるよう、真剣に考えてほしい。そのための医学です」(笹田先生)
生きている充実感がストレスを感じなくさせる
消費する以上のカロリーを摂取するから肥満する。こんな極めて単純な現象
を、なぜ克服できないのか。答えの一つには、正しい知識が知られていないことがあげられます。体重はそもそも落ちにくいものです。それでもダイエットを始
めた直後は割合らくに落ちていきますが、しばらくすると体が低カロリーに適応し、体重は減りにくくなります。これを知らずに、途中で挫折する人が多いので
す。
さらに正しい知識があっても長続きしないのは、ストレスが邪魔をしているからです。
人間の体は、自律神経系、ホルモン系、免疫系の三つが一体となって生命を維持しており、これには心の状態が密接に関係しています。ストレスという心の問
題は、身体的にさまざまな病気を引き起こすと同時に、日常生活においては過食(人によっては飲酒など)といった行動に駆り立てるのです。
過食を防ぐには、食欲をいかに抑えるかではなく、ストレスをどう解消するかが重要なのです。
「同じことを経験してもストレスと感じないときがあります。それは生きている充実感のあるときではないでしょうか。生きている充実感を高めることが、ストレスを感じにくくし、肥満の解消につながると考えました」(笹田先生)
どれだけ人生に充実感を持っているかを調べるために、心身健康医学では充実感テストを用いています。自分が今、ストレスを受けやすい状況なのかどうかを客観的に判断する方法です。
ところで、日常的なストレスの最大の原因は人間関係であり、それには性格が大きくかかわってきます。笹田先生は独自の性格分析テストによって性格を10
に分類し、それぞれの性格の人が、どんな場面でどんな行動を起こし、どんな相手に対してどんな感情を持ちやすいかを分析しています(詳細は笹田先生著
『ファイナル・ダイエット』朝日ソノラマ刊)。
性格分析の目的は、性格を変えることでなく、性格から自由になることです。
「一歩引いて、自分で自分の行動を眺める癖を身につけるのです。今、自分はこういう状態にある。こういう性格だからこういう行動をしている、と分析し、あるがままを受け止める。それが性格から自由になったということなのです」
ミニ・ファースティングと丹田呼吸で充実感を得る
では、実際に充実感を高める方法とはどのようなものでしょうか。
「最も効果的なのは、この道場で行っているファースティングですが、山登りでもいいし、旅行でもいい。しかし、長続きさせるためには手軽に日常的に行える方法が必要です。そこで考えたのが、ミニ・ファースティングと丹田呼吸法です」(笹田先生)
ミニ・ファースティングとは、家庭で週に一日、一食か二食絶食をする方法です。目的は減量ではなく原点に返って空腹感を感じることにあります。丹田呼吸
法とは、腹筋(丹田)で行う呼吸で、丹田を意識し、数をかぞえながら呼吸をすることで、頭の中をからっぽにし充実感を高める方法です。
現在、笹田先生は、この心身健康医学の実践に最大の重点をおいて肥満治療にあたっています。
「この方法は、ゆっくり時間をかけて会得する心づもりが必要でしょう。道場でのファースティングは心身健康医学の実践の一部分と捉えてください。ただ体
重を減らすためではなく、充実感を経験する、原点に戻る、といった目的で体験してほしい。なかには太っていないのに『やせなければ』と思い込んでいるかた
がいます。ファースティングを経験することで、やせることなんてたいして重要なことじゃない、と気づいてもらえれば、本当の意味で効果があったと思うので
す」