◆ストレスで食べてしまうのも、ダイエットにこだわるのも、すべて“時代”の責任なのです
兵庫県と五色町とで運営している淡路島の健康道場には、
ファースティング(絶食療法)を希望して、全国からたくさんの方がやってきます。もちろん、医学的にみてダイエットの必要な方もいますが、若い女性の場
合、ほとんど全員が、「もっとやせたい」という理由で訪れます。しかも、ダイエットとドカ食いのくり返しという、”苦しみのダイエット”に疲れてやってく
るのです。
健康道場を訪れた女性を例にとって、なぜ多くのダイエッタ―が、”苦しみのダイエット”に陥ってしまうのかを考えてみましょう。
◆女性のスリム願望は社会背景にその要因が
Aさん(26歳 159p 63.7s 肥満度20%)は、
就職した会社で、上司との価値観が合わず、人間関係に悩むようになりました。そのストレスが引き金でドカ食いをするようになり、1年間で10s体重が増
加。そのうち会社も辞めてしまいます。対人恐怖症に陥り、新しい会社の面接に行くのがイヤで、就職できないまま今日に至っています。また、太っていること
がコンプレックスになってしまい、外出もほとんどしていません。
Bさん(22歳 157p 60.9s 肥満度17%)は、
いつのころからか「やせなければいけない」という思いに取りつかれ、ダイエットをしてはその反動でドカ食い、リバウンドでさらに体重を増やすというパター
ンをくり返しています。ダイエット中は食べ物のことが頭から離れず、体重コントロールが生活のすべてになってしまうといいます。
Cさん(21歳 160p 67.7s 肥満度26%)は、
大学入学とともに上京。東京でのひとり暮らしになじめず、家に閉じこもることが多くなり、何かを始めようとしても体がだるく、食べていないと落ち着かなく
なりました。そんな生活で、この2年間で15sも太りました。さらに、専攻している学科が自分には合っていない気がして、この先の就職を考えると不安がつ
のり、ドカ食いの回数もふえてしまいました。
彼女たちを見ていると、人間関係や自分を十分に発揮して生きていないというストレスを感じ、またスリム=価値のあること、というアイデンティティーにとらわれているために、”苦しみのダイエット”に陥っているように思えてなりません。
ストレスがあれば、その発散のために食べてしまい、太ればそ
れがまたストレスになります。いっぽう、スリムであることにこだわってダイエットをすれば、その反動で食べてしまい、食べてしまったことで今度はストレス
を感じてしまいます。結局ダイエットはストレスをふやしているだけなのです。
でも、ストレスから食べてしまうのも、ダイエットにこだわってストレスをふやしてしまうのも、みなさんの責任ではないと私は思います。女性にとって、いまの社会はけっこう生きにくい状況なのです。
日本は、戦後のわずか50年間で物質的にはもっとも豊かな国
になりましたから、世代間で生きてきた環境が極端に違います。終戦直後の貧しい時代を体験した敗戦世代、高度経済成長の時代に育った団塊の世代、物があふ
れる時代に生まれた若い世代では、それぞれまったく違う考え方を持っています。
でも、その考え方の違う世代が、親・子ども、上司・部下とし
て共存しているわけです。だから、親や上司から注意されても、何だか古い考え方のような気がして納得がいかないことがあるのです。逆に、自分がいいと思っ
て提案したことでも、相手にその良さを理解してもらえない場合もあります。さらに、決定権やお金は親や上司が握っていることがほとんどです。これでは、若
い世代がストレスを抱え込むのも無理はありません。
◆自立したい女性には苦痛な自立できない社会
また、これだけ豊かな時代なのですから、きびしいしきたりな
どにとらわれず、もっと自分を発揮できる場所があってもいいはずです。ところが、年配者は、学校や会社、家庭で古い価値観をふりかざし、個人の自由を束縛
しようとすることが多いもの。でも、現代ではそれに耐える意味がほとんど
平等という言葉は名ばかりで、まだまだ女性が活躍する場所や
機会は限られているのが実情ではないかと私は思います。また、社会だけでなく女性も多くは自立心を育てようとしていないように見受けられます。この社会状
況の中で、もっと自分を発揮して生きたいと思う女性は苦痛を感じることでしょう。
さらに、価値観が多様化して、何をしてもいいけれど、何をし
ても全員から拍手がくることはありません。唯一、拍手がくることといえば、スリムであることと多くの女性は考えているようです。誰でも自分の価値を感じて
アイデンティティーを保つためには、拍手が必要です。そこで、やせることで自己表現をはかろうとする女性が多くなるのも不思議ではないと思います。
◆生きている充実感を高めればダイエットは必要なくなる
そう考えると、太ってしまう本当の原因と簡単に減量できない理由もわかってきます。すべては“時代”のせいと考えることができます。それがわかれば”苦しみのダイエット”から開放される解決法もわかってきます。
人間関係や自由な時代なのに束縛が多く自分を生きられないというストレスがあるなら、ストレスをストレスだと感じない、“自分”になればいいのではないでしょうか。
さらに、スリムであることがアイデンティティーになっているなら、他人の評価を気にしない“自分”になればいいのです。それには、生きている充実感を高めることだと私は思っています。
充実感が低くなってくると、不安や不満が出てきます。ほんの
ささいなことでも腹が立ったり、イライラしてきます。自分を責めたり、相手を攻めるので人間関係がさらに悪化し、悪循環になります。こうして、あらゆるこ
とがストレスになるため、ストレスでいっぱいになってしまいます。この状態で、ダイエットをしても、失敗は目に見えています。
しかし、たとえストレスがあっても、生きている充実感が高いときは。ストレスにはまずならないものです。自分が満ち足りていれば、気持ちに余裕ができます。多少のイヤなことは笑ってすませることができるでしょう。
他人からわるく思われるのではないか、評価されていないのではないかという不安に振り回されたりしないので、冷静にものごとを見ることができます。相手の立場や気持ちがわかり、思いやりのある対応をとることができます。だから、人間関係もうまくいくのです。
ただ充実感というと、すぐに恋愛や家庭の幸せ、仕事の成功を
考えがちですが、それは違うと思います。恋愛や家庭は人間がもっとも接近するところであり、悩みや悲しみももっとも強くなるところです。仕事も利害関係が
ぶつかり合う場なので、成功しようと考えれば大変なストレスになります。
もし、自分や他人の価値観や生き方を変えたり、現実や社会を変えなければ健康や幸せになれないのなら、いくら時間があっても足りないでしょう。それよりも自分の中の充実感を高めるほうが、より簡単で確実です。
たとえば、高原へ行って咲き乱れる花を見たとき、海外のリ
ゾート地へ行って透きとおるような海を見たとき、胸が感動でいっぱいになり、心に充実感が広がることでしょう。この能力は本来、自分の中にあるものです。
要は、日常生活の中で、こうした感動や充実感が高まる方法があればいいわけです。
◆社会から評価される人はだれかにとって都合のいい人
そこで健康道場で、私は、自分の中の充実感を高めるために3
つの方法を紹介しています。まず一つ目は、ミニファースティング。週に1回、1食か2食を絶食するというものです。頭をからっぽにして、ストレスを忘れさ
せる効果があります。二つ目は、丹田呼吸法。呼吸は、自律神経系でコントロールされていますが、大きな呼吸を丹田(腹筋)ですることにより、自律神経系を
通じて体を調和させ、さらに吐く息を一心に数えることによって充実感を高める効果があるのです。
そして最後は、“人間も自然の一部であるという医学的事実の
発見”です。人間の心臓は一日に10万回動いています。それも状況に応じて、早さが微妙に変わります。それを自分でコントロールできる人はいません。たっ
た1回といえども、自分の意思で心臓を動かした人は、歴史上、一人もいないのです。
人も自然も医学的に生かされて生きている、これはものごとの原点です。これに気づけば、大切なことにも気づくはず。つまり、もっとも大事なものは、“ただ”ということです。
太陽がなければ凍死してしまいます。でも太陽は、ただです。
森林やプランクトンからの酸素がなければ、2,3分で人は死んでしまいます。でも酸素は、ただです。水は、多少の水道料金がかかりますが、基本的にはただ
です。つまり努力とは関係なく人は生きることができるのです。
そう考えてみれば、人として生きていること自体、素晴らしい
ことだと思えてきませんか?しかも、自分は二人として同じ人間はいないのですから、やせていることにこだわっている自分も、バカバカしく思えてくるのでは
ないでしょうか。これは、宗教や道徳の話ではありません。単なる事実なの
たとえ社会から評価をもらわなくても大丈夫です。社会の評価
は、だれかにとって都合のいい人が、いい人なのです。親にとって、先生にとって、上司にとって、男性にとって、あるいは女性にとって都合のいい人になる必
要があるでしょうか。だから、社会の評価、たとえばスリムであることを絶対だと思う必要はないはずです。
ここまでお話すれば、自分は大いなる命の中で生かされている
んだ、自分はダイヤモンドのように価値のある存在なんだということがわかったのではないでしょうか。それが理解できれば、生きている充実感は自然と高まっ
てきます。そして、もうダイエットで苦しむこともなくなるはずです。