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公的断食施設 五色県民健康村健康道場

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朝日新聞(5回連載)


▲淡路島の健康道場にて絶食を体験する

▲入門

 ダイエットを決意した。二十五歳、身長一五二センチ、体重五五キロ、肥満度十二・九%。健康診断では、すべて異常なしの健康体だが、最近一カ月でニキロも体重が増えており、太りぎみが気にかかる。

手っ取り早くやせるには「食べない」のが一番。そこで兵庫県・淡路島にある健康道場を訪ね、ファースティング(絶食)に挑戦した。七日間の滞在で、三キロの減量を目標にしたが、結果はいかに……。五回にわたって報告する。(国沢 利栄)


▲「早速昼食から」に動揺する

 健康道場は、兵庫県津名郡五色町にある。正式名称は五色県民健康村健康道場。一九八二年に兵庫県と五色町が共同事業として開設した全国初の公的ファースティング専門施設である。

 「今までにどんな病気をしましたか」。事前に電話で申し込む際、道場長の笹田信五医師(四七)の問診を受けた。まずここで、ファースティングに適しているかどうかが判断される。

 ファースティングとは科学的な超低力ロリー療法のこと。完全な医学管理の下で行われるという点で、一般にいう「断食」とは異なる。ここで受け入れている のは、基本的に中学校高学年以上六十歳以下が対象。過去に心筋梗塞(こうそく)や脳卒中を起こした人、インシュリンを使っている糖尿病患者など、治療医学 を必要とする人には向いていない。

 問診には無事パス。入所が決まったが、後になって不安が押し寄せてきた。絶食なんてしたことがない。一食抜いてもおなかが減るというのに、本当に何も食べない生活に耐えられるのだろうか。
「軽い軽い二十日間ぐらい行ってくれば」。昨年道場に入門したことのある先輩記者が励ましてくれた。

 大阪の天保山から高速艇で約七十五分。津名港からタクシーに乗り換えて約三十分。このあたりは阪神大震災の震源地に近いが、いわれるほど、大きな被害はなかったといい、見た目には震災の痕跡をそれほど感じさせない。

 播磨灘を臨む小高い丘の上。おしゃれなリゾートマンション風の建物が目指す道場である。青空の下、穏やかな光景が広がっているが、入り口の石碑に刻まれた「断食に耐えて忍んで都志の春」の旬に思わずひるんでしまう。

 部屋に荷物を置いた後、早速身長、体重、血圧を測る。あとで比較するため全身写真も撮ってもらった。心電図、尿の検査、胸部]線撮影を済ませて相談室へ。

 「朝はしっかり食べましたか。覚悟はできていますか」。問診での看護婦さんの厳しい言葉にビクッ。見上げると、いたずらっぼい目が笑っていた。「女性は男性に比べてキッイ場合が多いですから、無理をしないで下さいね」

 最後に笹田医師の診察を受けた。「あなたの健康は問題ありません。早速昼食から始めましょう。ファースティングは体に史上最強の変化を起こします。最初は少しつらいかもしれませんが、次第に充実感と爽快(そうかい)感が得られますよ」

 えっ、ウッソー。初日は検査だけじ軒なかったの?

 もうお昼から食べられないの? 心の準備が整わないまま食堂へ。カウンターで名前をいうと、コップに半分の白いジュースを渡された。これから三日間、食 事代わりになる特製ジュースだ。しかも、私は年が若く、健康であることから、それさえも通常の半分の量に制限されるという。

 昼食時間が過ぎた食堂には、ほかに二人の入所者がいたが、ジュースを手にしているのは私だけ。だんだん気がめいってくる。しかし、がんばらなければ。自らを励まし、エイッと気合を入れてみる。おなかがグウと鳴った。

▲一日で1.7キロ減「楽勝よ」

▲利尿作用

 兵庫県淡路島にある五色県民健康村健康道場には、糖尿病など成人病の改善と予防を求める人のほか、減量を目的にした女性も多く訪れる。最大約六十人の宿泊が可能で、医師一人、看護婦四人、保健婦、栄養士各一人が入所者の健康管理にあたっている。

 十六日間の標準コース(初日が検査で絶食期七日間、復食期八日間)のほか、十一日間の短期コース、二十日間の長期コース、七日間の入門コースがあり、開設以来十三年間で卒業生は延べ一万四千人を超えている。

 入所初日。時間がたつのが遅い。正午過ぎにコップに半分の特製ジュースを飲んだ後、午後五時の夕食まで、何も口にできない。夕食の前にオリエンテーションがあるというが、その時間がなかなかこない。

 午後四時過ぎ、オリエンテーションが始まる。同じ日に入った四人がそろって注意事項を聞き、看護婦さんから体重表を渡された。そこに毎日、体重と体温、脈拍などを記入し、折れ線グラフにしていくのだ。

 午後五時。やっと夕食の時間。食堂に行くと魚、みそ汁、サラダ、牛乳、リンゴなど復食期の人たちの「ごちそう」が並んでいる。それを横目に、特製ジュースをチビリチビリ。

 食事代わりに一日三回飲むこのジュースは、一回分が百_リットル(五十`カロリー)。たんばく質や十種類以上のビタミン、ミネラルなどが含まれており、 カロリーを除いては必要最低限の栄養素は確保できるという。バナナやパインの味がついて美味ではあるが、やっばり物足りない。

 「ごめんねー、前で食べて」。退所が近い女性が笑顔で話しかけてくれた。さりげないふうを装っていたのに、うらやましさが顔に出ていたのだろうか。 ちょっと焦ってしまう。二十日間コースで、絶食七日目という男性が「七日間コースでしたら、復食日は僕といっしょですね。がんばりましょう」と言ってくれ る。非常に心強い。

 部屋に帰ると、ひたすらお茶を飲む。ファースティング(絶食)中は、脱水症状を防ぐため一日に二リットル以上の水分をとらなければならないのだ。食堂で借りたボトルにお茶を入れ、ひまさえあれば飲む。

 しかし、これがなかなか苦しい。三十分に一度はトイレに通わなければならない。尿が水のように透明になっていく。うらめしい。

 夕食が終わると、シャワー。だが、それでカロリーを消費したのか、よけい空腹を感じる。気を紛らわせようとテレビをつけたが、食事の場面ばかりが気にかかる。そのたびにチャンネルを替えたが、番組でもコマーシャルでも食べ物を扱ったものがやたらと多い。

 仕方がないから消灯時間を前にふて寝。しかし、トイレにいきたくなってたびたび目が覚める。吐き気がしてくる。結局、熟睡できたのは明け方になってから。ひどい夜だった。

 二日目。近くのお寺の鐘の音で目を覚ます。検尿をして体重測定。なんと一・七`減っていた。初日でこれなら目標の三`減なんて楽勝、とウキウキした気分になる。朝食時、パンの焼けるいいにおいも気にならない。

 コップに半分の特製ジュースをちびちび飲んだ後、中国の太極拳に似た保健体操と下腹に力を入れる丹田呼吸法の講習を元気に受講した。看護婦さんの問診を受け、血圧を測った後は、道場長の笹田信五医師(四七)に診察してもらう。

 昨夜の吐き気のことを訴える。「それは、軽い低血糖発作によるものでしょう。でも、体に蓄えられた脂肪とたんばく質を食べていくので、後はあまり空腹を感じないはずですよ」

 いわれてみれば、その通り。気が付けば、吐き気も空腹感もなくなっていた。澄んだ青空を見ているだけでも、生き生きとした気分になってきた。

▲空腹も感じずウキウキ

▲充実感

 兵庫県淡路島の健康道場は、高台にあって眺めがよい。遠くに播磨灘が見渡せる。ここで絶食療法に挑む入所者は、光る海を眺めながら道場周辺の平地を散歩したり、陶芸やアトトフラワーなど趣味の教室に参加したりして自由時間を過ごす。

 二日目の午後から道場長の笹田医師(四七)による新しい心身健康医学についての講義が始まる。

 「過食、酒、たばこがストレスの解消法になっていませんか。単にそれらを制限しようとしても、かえってストレスを増やすだけです。本当の解決法は生きている充実感を高めること。そうすると、ストレスを感じなくなります」

 「充実感を得るためにはファースティング(絶食)、丹田呼吸法、生かされてる医学的事実の発見、という三点が必要です」

 丹田呼吸法とは、丹田(腹筋の部分)で呼吸する方法で道場でも一日に二回、ビデオを利用した講座がある。絶食療法と同様、頭を空っぽにして心身の関係を高める効果があるそうだ。

 先生の説く「生かされてる医学」というのは、心臓が自分の意思とは関係なく一日に十万回動くように、医学的に見れば人間は「生かされている」ということ。この事実の認識が、自分が大切な存在であることの発見につながり、やすらぎが得られるという。

 「なるほど」と納得させられる話ばかり。でも、道場を出て、一人になってからも続けられるかどうか。退所後、三点セットの実践をサポートする「生かされてる医学コミュニティー」があると聞き、入会してみようと思った。

 それにしても絶食療法で得られるそうかい感、充実感が素晴らしい。

ジュースしか飲んでいないのに、二日目以降は空腹感もなぐ、ウキウキした気分。鳥の鳴き声や虫の青が敏感に感じられた。

 「草が生えてる、といって感動した人がいましたよ」と話すのは、看護婦の坂東朝子さん(四四)。自らも絶食療法の体験があるという。「庭の雑草に感動する。それだけ余裕のない毎日を送っていたんでしょうね。ここで元気になって帰る人を見るのは本当にうれしい」

 二日目は午後八時にビスケット三枚とヨーグルトの夜食が出た。おなかはすいていなかったが、思いがけない「おやつ」に大喜び。

 ビスケットってこんなにおいしかったかしらと感動し、ちびちびと食べた。こんなささいなことでハッピーな気分になれる自分がおかしくもあった。

 食事を楽しめない分、入浴の時間が待ち遠しい。道場には大きな浴場があり、復食になると浴槽に入れる。「何キロ減りました」などとおしゃべりを楽しむ。たいていは肉づきのいい人ばかり。ふと気づくと、ほとんどがやせると評判になった中国製の海藻せっけんを愛用していた。

 「これ、ええよ。肌がつやつやになったもん」。隣の女性(四九)に勧められるまま、私もせっけんを借り、たるんだお肉を引き締めるマッサージ方法まで教 えてもらった。「あとで部屋においで。下半身を引き締める体操教えたげる」芦屋市に住むその女性は、阪神大震災でがれきの下敷きになって腰を痛め、医者に 減量をすすめられたのだという。

 六月に十日間の絶食療法をして八`の減量に成功。その後も家での食事に気を配って二`を減らし、さらなる減量を目指して二度目の入門、という。

 「こうしたらええねん」。彼女の部屋で「やせる」講習を受けていたら、どこから聞きつけたのか「私も!」とさらに三人の女性が加わった。「やせたい」願 望はみな同じ。ねいわいと井戸端会議をやっていたら、午後九時の巡回に来た看護婦さんに「部屋に戻ってください」としかられてしまった。 

▲3日使わぬとアゴ痛い

▲復食期

 兵庫県・淡路島の健康道陽に入所して四日目。あやしい空模様にもかかわらず、朝から大変気分がよかった。理由はただ一つ。この日の夕食から待望の「食事」が始まるからだ。いつものように体重を測る。入所時に比べてマイナス二・八`。

 普通七月間のファースティング(絶食)で、体重は約七・八%減るそうだ。

私の場合、期間が三日と短いからそれほど期待はできないが、減り続ける体重を測るというのは本当に気分がいい。

 午後から、道場長の笹田信五医師(四七)による性格分析の講義があった。入所の際に全員が「充実感テスト」と「性格分析テスト」を受けており、講義ではそれを分析していく。

 充実感テストは「さわやかさん」「お天気さん」「無感動さん」「不快さん」の四つに分類。「性格分析テスト」は、「人の評価を気にする」など五つの観点 から性格を分析、折れ線グラフに表して「イケイケさん」「ボロぞうきんさん」「クールさん」など十タイプに分類する。どのタイプが理想的というのではな く、自分の性格を知るのが目的だ。

 テストの結果、私は「無感動さん」で「イケイケさん」タイプと判定された。

「イケイケさん」は、昭和一ケタ生まれで、中小企業のオーナーや各界のリーダーに多い。前向きで活力があってバリバリと仕事ができ、人にほとんど気をつかわず、不安感がない。心身ともに疲れていてもそれを感じず、ますます闘志がわいて突然死するというパターンが多い。

 「しかし、これは違いますね。あなたは本当は『普通さん』タイプですよ」。後で笹田医師にそう言われた。私のテストの質問項目を見て「人の評価を気にする子供」の部分に、無理が感じられたという。

「あなたはもっと人の評価を気にする部分があるはずです。でも、自分の弱さを認めたくない、あるいはイケイケ、猛烈タイプでないとやっていけないと思って、無理をして生きているのです」

 その道りだと思った。医師の言葉はさらに続く。

「それは自分を裏切ること。他人の性格を演じていると、いずれつぶれますよ。悩みには価値がある。あなたの悩みがあなたの切り口になるんです。『自分の山』を登って下さい」

 まるでカウンセリングを受けているように、気持ちがスーッと楽になった。

 気がついたら涙が出ていた。後で聞くと、自分を縛っているものが解け、解放感が得られるせいか、泣いてしまう人は結構多いという。

 夕食の時間。「よくかんで食べるんですよ」という看護婦さんの言葉にハーイと元気よく返事をして、いそいそと食堂へ向かう。復食は、三分がゆ(一日の摂 取カロリーが六百`カロリー)から始まり、五分がゆ(八百四十`カロリー)、全がゆ(千四十`カロリー)、常食(千二百四十`カロリー)へと次第に戻して いく。私は五分がゆからのスタートだった。

 サワラの南蛮づけ、キャベツのおひたし、ポテトサラダ、ブドウ。最初の食事は、本当に感動もの。一口一口かみしめるように味わった。ブドウが妙に甘く感じられる。三日間使わなかったせいか、アゴが痛い。胃が小さくなっているのか、すぐに満腹になってしまった。

 ここで食事のメニューを決め、入所者を栄養面からサポートしている栄養士の白岸伊寿美さん(三九)に聞くと、復食期に入っても、太りたくないといって食 べない人がいるそうだ。これは危険。彼女に退所後の食生活の講義や指導をしてもらい、とりあえず十四日分のメニューをもらって帰った。でも、残念ながらそ れは実行できていない。


▲2.5キロ減少、心もスリムに

▲ついに退所

 絶食療法がスタートして五日目。朝食にオーブントースタ−でロ−ルパンを焼いた。香ばしいにおいが鼻をくすぐる。コーヒーが欲しいところだが、許されていない。牛乳で我慢。定例の診察時に、笹田信五医師(四七)からワゴン車で外出する許可が出た。

 看護婦さんの付き添いで外出許可のワッペンをつけ、いそいそと車に乗り込んだ。久しぶりの外の世界。行き先は近くの五色浜と慶野松原。シーズンオフの海は美しい。感動し、子供のようにはしゃいでしまった。

 六日目。やっと常食になった。おかゆではなく普通のご飯。かみしめるたびに、うまさが広がる。

 昼の食事中、町まで「脱走」するという計画を聞きつけた。もちろんこれは禁じられている。でも、「脱走者」の気持ちを知りたかった。仲間二人と道場を抜 け出し、川沿いの道をてくてく下っていく。昔味わったいたずらっ子の気分がよみがえり、ワクワクとして楽しかった。だいご味は、この辺にあるらしい。

 退屈を見越して、本をたくさん持参したが、絶食中は、ほとんど読む気になれなかった。頭が空っぽの状態になり、考える力がわいてこないのだ。そのかわり、入所者とのおしゃべりを存分に楽しんだ。

 同じ時期に入所していたのは、十代から五十代まで約二十人。似たような目的で、似たような苦労をしているせいかみんな昔からの知り合いように仲良くなった

 「(体重)減った?」

 「(便は)出た?」

 「帰ったら、なに食べたい?」

 顔を合わせると、いつもこんな会話が飛び交う。

 兵庫県三木市から来ていた苔口佳代さん(二三)は「まるで合宿。楽しくって家に帰りたくない」と話した。

 神奈川県平塚市の看護婦遠藤孝子さん(ニ八)は、医者と患者にはさまれた人間関係のストレスから過食になり、一カ月で六`太ったという。「来たときはもう精神的にボロボロ。でもここでリフレッシュできました」と明るく話す。

 笹田医師は「社会適応だけを目的にし、人間を『物』扱いしてしまう時代そのものが、ストレスを生み出し、健康をむしばむ原因になっている。自分の中にあ る生命力と充実感を高めてストレスをなくし、本当の自分を生きるという価値観こそがこれからは必要になってくる。健康道場の医学は、本当の自分を生きたい という人のための新しい医学です」という。


 だれもが平等で自由で平和に暮らせる場所−絶食という共通の体験で結ばれた健康道場は、そのためにある場所かもしれない。

 七日目。いよいよ退所。入所時五五`あった体重は、五日目には二・九`減ったが、復食期に少し戻ったため結局五二・五`。二.五`の減。目標の三`には及ばなかったが、肥満度は一二・九%から七・八%、になり、なんとか標準体重域に収まった。

 退所時の充実感テストでは「無感動さん」から「さわやかさん」になっていた。心理面でも変化があったようだ。

 友達もできた。「同窓会をしたいね。もちろんスリムになって」。あいさつをすませ、道場を去るとき、見送りにきてくれた仲間から声が上がった。

 帰宅後もダイエットは続く。食事の量だけでなく内容に気を配る。以前はいいかげんだった朝食も必ず食べている。充実した生があれば、過食には走らないという先生の教えに従い、人生を大切大町に生きていこうと思っている。

 =おわり

 



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